twnovel:200
夜空から白い花びらが落ちては黒い波へ融けこんでゆく。白い花に占領されているのかと畑に赴けば、香りは酷く冷たかった。透き通る空気に肺がひりつきその場へ倒れこむ。刺されるような痛みのあとは、もうなにも、かんじない。
3月 24, 2015





twnovel:199
桜の下に昔の自分を埋めようと思った。自分の抜け殻は桜の養分になるだろうか、なるならば一体どう成長するだろうか。スコップで地を掘ると、やがて空洞にいきあたり、薄紅色が視界に入る。なんだ先客だ。そこには咲き誇ったまま死んだ昔の桜が、丸ごと埋まっていた。
(#桜埋め)
3月 23, 2015





twnovel:198
目を覚ますと密室にいた。耳が痛くなる静寂。ふと何かが聞こえ、意識すればその何かはどんどん大きくなり、これは己の押し殺してきた悲鳴だと気づく頃には、大音量に耳を塞いでいた。思わず一言呟けば音がやみ扉が開く。己はただ、何にかは分からないが「ごめん」と言っただけだ。
3月 21, 2015





twnovel:197
みんな知らないみたいなんだけど、近所の薔薇園に井戸があるんだ。小さいからすぐには分かんないんだよ。横を通るとさ、何かに呼び止められる感じがしてさ、え、何故こんなに詳しいのかって。――そう言えば、何で俺はあの井戸を知ってるんだろう。
3月 20, 2015





twnovel:196
吐いた言葉が星や花になって出てきた。孵化を待つ日々から解かれた君への想いは、しかし純白でも清らかでもなく、僕はあまりの陳腐さと安っぽさに放心する。地に落ちたそれらを君は抱えてくれた、その手がたおやかで、もう何も、要らない。それが世界だ。
3月 18, 2015





twnovel:195
素敵なお笑い男女コンビになろう、と約束して以来、ずっと俺の手にはハリセンが。「どうして本気出さないの」ある日彼女が手渡してきたのは刃物だった。できない。美しい成人女性にこれを全力で振るうとかどんなギャグだよ。目を醒ませよ。「約束したのに」笑うのは、彼女だけだ。
3月 17, 2015





twnovel:194
明日は来ないと知ったとき、急に自分が今生きていることを実感した。血がたまり膨張する頭、竜巻の下のようにひゅっと小さく見える自分の足。その裏が確かに地についていると、はっきりわかった、遅すぎる生の感触。よかったさいごにわかって。これだけでもうけもんの、人生だった。
3月 16, 2015





twnovel:193
恋が成就するまでの速度を一回自由に決められる、ここは魔法の店。つい今日の客には念を押してしまった。「そんなに速くていいのか。叶うのが速ければ速いほど、終わるのも速くなるのがこの魔法だが」「そのほうがいいんです」真直ぐな目。この客は、本当は何を望んでいるのだろう。
3月 15, 2015





twnovel:192
朝起きたら世界が活字で出来ていた。「足」の下には「道」とあり、よく見ると「石」や「砂」が落ちている。活字狂いの僕は狂喜乱舞したけれど、「愛しい君」と「青空」を見てふと悲しくなった。言葉では到底表せないものがある、そんな世界が好きだから、僕は創作家になったんだ。
3月 15, 2015






twnovel:191
健康になってから恋をなさい。青年の祖母は昔、幼い彼にそう諭した。「病気の身で想うなど相手方に失礼でしょう」恋だって患うものなのに。窓際の花へ触れる看護師のひらめく指を、ベッドから彼は見つめるだけだ。ふたつに増えてしまった不治の病を抱えながら。
3月 14, 2015





twnovel:190
つかれたな、と言いながら鳥が落ちてきた。部活の準備をしていた僕と彼女は無言のまま彼を匿った、その翌朝、彼女からのメールで目が覚める。「私が埋めたから」急ぎ登校した僕を出迎えた彼女の結ばれた唇。泣くなよ。タブーがもれて雫が落ちた。明日は飛べると、信じていたんだ。
3月 12, 2015





twnovel:189
そのひとは俺にとって母であり姉であり妹であり恋人であり友であった。しかしすべてであったからこそ、たったひとつのポジションにはついぞならぬまま彼女は去った。言葉にできぬ関係が永遠を運ぶのか、それとも逆か、永遠は夢幻なのか、残された俺は今でも迷う。
3月 9, 2015





twnovel:188
青い鳥を追いかけて落ちた先は、緑に塗られた矢印の標識が立ち並ぶ町だった。空では金の星が瞬いている。「ここは一体」呟けばがくんと床が自動で進んだ。行き交う者はひとであってひとでない、命ひしめくこの場所は、成程確かに幸福の地だ。
3月 9, 2015





twnovel:187
「愛いかがですか」と書かれた体で公園の隅、夜の道、佇んでいる。見つけてくれた人はこちらに小銭を入れ、どんなものがほしいか選ぶ。会話はなく求められるままに小さな缶を渡す、それを手に包み去っていく寂しげな背を見送る。130円の愛さえ、今の世界には足りない。
3月 6, 2015





twnovel:186
展覧会の招待状が届いた。応募した覚えがなく首を傾げ足を運んだ先で、僕は早くも出口を探す。「もっと楽しんでください」展示品に囲まれて立ち竦む。ここにあるのは今まで踏みつけてきた様々なひとの笑顔、涙、僕のなくした記憶。認めるまで、出られない。
3月 6, 2015





twnovel:185
折本って何? ネットで創作活動をする彼が、不器用な私に印刷や折る方法を教えてくれた。出来上がったのは様々なひとの言葉の宝石箱。遠く離れていても、胸ポケットに手のひら、いつも気に入った物語と一緒にいられる。こんなに尊い本たちを、私は他に知らない。
3月 4, 2015





twnovel:184
カラーの花のようなひとが、目の前に立っているのが見えるようになった。不思議な衣を纏った佳人。はかなげに微笑む影へと手を伸ばしては、まばたきの途中で消えてしまう。ああほらまた。ずっと一緒にいたいから、瞼を閉じることを僕は、ためらっている。褪せぬ白。
3月 3, 2015





twnovel:183
より人の力になれるのはこっちだと言って幼馴染が医学を選んだ、あの日から僕は誰かのために文を書いてきた。結局誰の力にもなれぬまま再会した僕らは、目の前で転んだ子供を競うように介抱する。「先生たち、一緒にいたら何でもできるね」はて、ペンとメスは共存できるだろうか。
3月 3, 2015





twnovel:182
過去を暴きたちまち物語を書けなくさせると噂の文筆家の敵のような占い師がいるという。話の種に訪ねれば「余程おつらかったのですね。物語が泣いています」と告げられた。面白い、折れてやるものか。泣き顔でも愛し愛されることは可能だと、一緒に証明するよう書き生きると誓おう。
3月 3, 2015





twnovel:181
分かれ道に出くわす度気紛れに棒を倒し道を決め、うたを詠み生きてきた。石段を登りだして数日後、天辺が見えないことに気付き踵を返し、数段下れど時既に遅し。相も変わらず続く先を見、一本道に棒を倒した。どうせ終らぬ道なら尚、この声もやませない。
3月 3, 2015