twnovel:120
なんでこんなに家が静かなんだろう。おかあさん返事して、ねえ、どうしてこんなにしずかなのくらいの寒いよこわいよ「うるさい。眠れないでしょ」違うおかあさん寝てなんかいなかったさっきおかあさんはしんでた「眠りが理解できないんですね」お医者さん、わたし、くるってないわ。
1月 5, 2015





twnovel:119
「何で書くのをやめないんです」うーん、知ってる? 戦場の兵士は死を意識すると欲情するって言うでしょ。「つまり僕に包丁突きつけられて創作欲がわいたってんですか」まだ包丁どけないでね、書き足りない。「……あなたは生かしておきます」え。待って、何それつまんない。
1月 5, 2015





twnovel:118
落ちろ! 落ちろ落ちろ落ちろ! 知られてはいけない。突き放す。突き落とす。暗い海がそいつを喰らい嗤う。嗤う。僕を嗤う。うるさい黙れ! そいつの口を目を鼻を塞いで手足をもいで、
ここはどこだろう。なんで僕は口も目も鼻も手足もないんだろう。だれにやられたの。だれに。
1月 5, 2015





twnovel:117
いやに息苦しそうにしている子が駅にぼうっと立っていた。僕は通学鞄からカッターを取り出して、そいつの半開きの口と目の真上を徐にきってやる。伐ってやる。ありがとう、きみ、見えるの、そいつは言う。その口から桜の樹が伸びて伸びてとまらない。
静かに倒れていくそいつと、僕。
1月 4, 2015





twnovel:116
――きがくるうにはまだはやい。
つ、と唇を横にひいた相手に手を伸ばす。億劫そうに帯が解かれ、そこから世界が薫る。嗚呼、その紫煙より、この香より、脳髄が踊るのだ。どうした、と囁かれ、なんでもないさ、とだけ返す。気が狂うには未だ早い。朝が来るには、まだ早い。
1月 4, 2015





twnovel:115
大丈夫よ。これは防水の車なんだから。母さんは僕と妹を乗せて笑いながら海に進んだ。普段だったら眩しくて、曇った所を妹とらくがきする窓が、水族館の水槽みたいになっていく。ママ、たのしいね。妹は笑うけど僕は口がきけない。母さんは笑っているだけだ。車が、海に沈む。
1月 4, 2015





twnovel:114
きみはすきにいくといい。ぼくはきみのうしろを歩くよ。血を浴びても、水をかけられても、だいじょうぶ。穴に落ちたそのひ、天が裂けるそのとき、ぼくはきみをだきとめる。
きみの目からはじけとぶ、うすい花びらをすわせておくれ。わすれないで。ぼくはここにいるよ。
1月 3, 2015





twnovel:113
この鏡が割れたら、私をきらいになって頂戴。そんなことはむりだと必死に鏡にテープを貼り数千年、数万年、鏡は覆われて卵のようになった。文明の絶えた星、鏡の卵とふたりきり。とうとうひびが入り鏡が裂けた。悲しみも束の間、懐かしい笑顔が現れる。
永遠のすきを、ありがとう。
1月 3, 2015 フォロワーイメージついのべ⑥





twnovel:112
日の昇る場所を見つめます。朝焼けにはまだ早く、夕闇にはもう遅い。ね、忘れないで。ぼくは呟きます。この足が地に根付いても、あなたの瞳の色は遠く輝いている。ひとをいつくしむ、その色が離れない。ここであなたを仰ぐ、ぼくを忘れないで。日の帰る場所で、ぼくは待っています。
1月 3, 2015 フォロワーイメージついのべ⑤






twnovel:111
無邪気な時計、と呼ばれる大きな振り子のある時計に、コンバンハがすみついた。その前を通れば、コンバンハと高く明るい声が聞こえる。今晩は、と返せば、振り子の前に少女が現れ、文字盤を示す。時を教えるだけだったそれの変化を認め、人々は時に顔を覆い、時に顔を笑みに変える。
1月 3, 2015 フォロワーイメージついのべ④





twnovel:110
不思議なもので、姿はないのに、その草原にはまっすぐ続いている足跡があるのだ。青空の下、毎日数歩ずつ、ゆっくり、いのちをふみしめていく足跡である。目印も支えも失い泣き疲れたこどもは、その足跡を見つける。そして自分の存在がゆるされているのだと知り、その後を進みだす。
1月 3, 2015 フォロワーイメージついのべ③





twnovel:109
ひとつ、少女は蓋を開けた。極彩色の世界が吹き出し少女は笑い転げる。次の蓋を開けた。闇にすべり落ち、それでも少女の笑い声はやまない。彼女の後ろをずっと歩いてきた青年が少女を穴から抱き上げ、穏やかに一言。途端、少女は慟哭する。その双眸から、淡い色の花々が零れ落ちる。
1月 3, 2015 フォロワーイメージついのべ②





twnovel:108
空を泳ぐために翼などいらない。歌うために声などいらない。そこにこころさえあればいつだって、悠々と飛び立つことも、朗々と声を投げることもできるのだ。絶望を汚いものだと見做さずに、こわれもののように扱うその、こころ。とわに自由であれと、天に叫ぶ。
1月 3, 2015 フォロワーイメージついのべ①





twnovel:107
猫に人間の食べ物をあげてはいけません。絶対に、と青年は獣医に念を押されていたのだが、彼の同居猫は視線を盗んで伊達巻を食べてしまった。ああ、やってしまった。青年の同居猫はどんどん伊達巻に変容していく。 だから、食べちゃだめっていったのに。
1月 2, 2015





twnovel:106
夢の中で少女が口ずさんでいた歌を、どうしても青年は思い出せない。「あの少女は大昔の僕だ。僕は彼に歌で心を伝えていたんだ」青年には、少女の名も少年の名も、歌詞もやっぱり、思い出せない。今すぐにでも伝えにいかねばならないのに、×××××、×××――×××××。
1月 2, 2015





twnovel:105
人々のために、詞を変え、舞いながら少女は歌う。「図々しいやつめ」歌の終わりに罵倒され、樹に隠れる少女に、少年が歩み寄る。「仕方ないよ。彼女はそういうひとなんだ」ね、久しぶり、一緒にいこう。そう笑う少年の手を取り、歌うとき以外は唖者になる少女は微笑んだ。
1月 2, 2015





twnovel:104
転校生って主人公にぴったりだし、それに君の名前、珍しくて、君をモデルに小説を書きたいんだ。そう言われて十年経ち、あの子は僕より先に逝きました。その小説は完成したのかな。今僕があの子をこうして書いてることを、あの子は知らないのです。
1月 2, 2015





twnovel:103
2014個の墓を乗り越えて、生まれてきましたお初にお目にかかります、2015番目の、あなたの夢の連れ合いですどうぞ宜しく。あなたが夢をおつくりする間、おつらくなったらどうぞこの背にその背を預けてくださいね。そしていつかぼくが消えても、どうか泣かないで。
1月 1, 2015





twnovel:102
きみがきえてもぼくは命をつないでいく。ぼくたちの涙から、うまれるものもあるのだ。ねえきみ、何がほんとうに愛すべきものか分かるかい。ほんとうに、ゆるしてはいけないものが何か。ぼくときみはいったいなんだろう。また会えるだろうか。きみの涙をさらって、ぼくは駆け抜ける。
1月 1, 2015





twnovel:101
まばゆい花野の中心で、一人のこどもが声をあげ泣き続けている。子はまだ知らないのだ、その星の文明が絶えて久しく、かれの罪を知る者などいなくなってし まったことを。周囲でそよぐ、花々だけが、かれを撫ぜて赦してくれることを。風が囁く。お泣き止みよ、どうかお泣き止み。
12月 31, 2014