twnovel:100
いいさ、きみはそのまま空を仰いでいろ。ぼくはきみを逃がしやしない。その歩みをとめ、髪を引き、きみが気づいた頃にはその両目がぼくから離れないようにしてみせる。そしてさいごには必ず、きみの心臓をもらうよ。
12月 31, 2014





twnovel:099
その体、頂戴な。輪になった縄の前で佇む少女に、にこやかに声をかけるのは浮遊する少年である。俺間違って死んだんだ、だからもう一度生きなおしたいの、君どうせ死ぬ気なんでしょ。少女は首を横に振る。あなたも私も今から死んで、そしてまた会いましょう。来世へ繋ぐ約束。
12月 31, 2014





twnovel:098
社会に役立たない存在は雑巾へ加工します。そう言われた人間が今日も雑巾工場から出荷される。初めましてぼくは雑巾です、貴女のお役に立ちに来ました。彼 を手にした少女は微笑む。わたし涙を拭く布さえなかったの、あなたは襤褸布なんかじゃない、今日からわたしの大事なひとよ。
12月 31, 2014





twnovel:097
盗難届に「心臓」とだけ記入して警察署を出る。帰り道、学生時代によく寄った公園を見かけ、足が止まった。返してください。不意に言葉が口をついて出る。 返してください、君が僕の心臓を奪い去ってから、僕は他の誰にも夢中になれない。返す気がないのなら、どうぞ永遠に殺して。
12月 31, 2014





twnovel:096
ばたり、音がした。雪が枝から落ちたんだと思い、僕は歩く。歩く。僕の足は止まらない。歩みは止めないと君と約束したのだ。 いつの間にか隣を歩いていた君がいないことに気がついた。僕は独りでこの道を歩いていた。振り返ればよかった、あれは、君が倒れてしまった音だったんだ。
12月 30, 2014





twnovel:095
ぼくは人だから忘れるけれど、天にまします星だけは、覚えていると信じてる、あの夜きみがぼくの泪をほんとうに掬ってのんでしまったこと、ぼくの罪をきみが知ったこと、見て見ぬふりを決め込んだこと、そんなきみに背負わせてそして青に突き落としたこと。
(ツイッターにてフォローさせて頂いている方より「星だけは、覚えていると信じてる」の一文をお借りしました。)
12月 30, 2014





twnovel:094
ああたまらない! 僕は君の表面に指を滑らせ、陶然と頬ずりをして眺め続けた。いけないもうこんな時間だね、愛おしすぎてしょうがない。枕を共にして微笑 んで思う、きっといい夢が見られると。でも僕は愛しすぎて――明日も君を開けないんだ、苦労して手にした新しい本なのにね。
12月 30, 2014





twnovel:093
「この物語を完成させたら私しぬわ、書きたいものは尽きてしまったもの」笑う少女の許へ、物語の完成する直前に少年が小話を持ってくる。それを得て少女は着想を得、また物語を新たに書き出す。それが少年による少女の延命治療だということに、少女は気付かない。
12月 29, 2014





twnovel:092
猫が体調管理のために食べる猫草は大変美味しそうであり、猫がちょうどその細いものを齧る様などは見ていて我慢できないのだ。僕も猫草を齧ってみる。手掴 みでそのまま。足音がして振り返ると、母が立っていた。「食べちゃったのね」僕の頬から、猫草みたいに細いひげが伸びていた。
12月 28, 2014






twnovel:091
さよならまたねと手を振った。黒い夜空の下、無人の公園、外灯に浮かぶ牡丹雪。君の後姿が闇に溶ける、それが怖くて僕は走り、すぐに転んだ。君が振り返っ た気がした。その視線がほしくて走った筈なのに愕然とする。自分でも知らない浅ましさを、無言の君に暴かれたような気がした。
12月 28, 2014





twnovel:090
年賀状を買い足そうと思って近所のコンビニに足を運んだところ、在庫セールのカートに入れられている人間と目が合った。ふざけている子供でも、ノイローゼ の大人でもない。つまらなそうに値下げ札を名札代わりに下げている彼を尻目に会計を済ませ店を出てから気づいた。あれは僕だ。
12月 26, 2014





twnovel:089
頭の隅にいつも小さな女がおりまして、つまらぬつまらぬと喋るのですがこれがまた煩いのです。何がと申してもつまらぬといらえ。一体何がつまらぬのでしょう、私の口からもまた、つまらぬつまらぬと言葉が。はて、なにがつまらぬのか、落下しながら考える。ぐちゃ。
12月 26, 2014











twnovel:086
クリスマスの朝、吊るしておいた靴下の中からは靴下が出てきた。その中からまた靴下が出てきた。その靴下からまた靴下が。そこから更に靴下。最後には毛糸の屑が出てきた。サンタクロースは僕に何を伝えたかったんだろう。
12月 25, 2014





twnovel:085
クリスマス・イブなのでショートケーキをひと切れ買ってきたのだが、安普請のアパートに帰った途端そいつが口をきいた。「お前独りで寂しい奴だな」皿に乗せてフォークを突きつける。「君が喋ってくれたからもう寂しくないよ」天辺の苺が真っ赤に熟れた。僕の勝ち。
12月 24, 2014





twnovel:084
わたしのおじいちゃんはサンタさんです。でもとてもきびしくて、わたしにはプレゼントをくれません。人形をちょうだい、お家をちょうだい、パパとママを ちょうだい。それでもおじいちゃんは、わたしからいっぱいうばってそれをみんなにくばるだけ。きみは悪い子だからね、と笑って。
12月 22, 2014





twnovel:083
夏は蛾を追い払いながら、冬は震えてコートを掴みながら、それでも家にはいられずに、毎夜少女は電話ボックスに入る。ここだけが秘密の居場所で不可侵のゆ りかごだ。安心しきった彼女は知らない、電話ボックスで彼女が眠ったときだけに、見知らぬ青年が扉を守るように現れることを。
12月 22, 2014





twnovel:082
異星人がやってきて、どう対応すべきか混乱しているうちに、世界各国の要人たちが揃って死んだ。更に混乱しだした地球人に、異星人が壷を見せる。「こちら にその方々を入れてください!」どうにか通じた地球人が従うと、要人たちは甦った。今の地球では、もうそれが欠かせない。
12月 22, 2014





twnovel:081
騙されてばかりの人生でした。嘘を吐かれてばかりでした。ごまかしばかりの一生でした。ですから、最期くらい本当がほしいのです。この体に真実を。お願いです、しにゆくわたしをいじらないで。どうかこのまましなせてください。いたずらに命を、のばそうとしないで。
12月 22, 2014