twnovel:080
天の神が人間の死を許さなくなった。地獄の管理人も人の死を認めない。現世に飽和する人々は、頭を付き合わせてどうにかして死ねないかを考えた。無駄である。彼らのいる現世がすでに、天国であり地獄であるのだから。
12月 21, 2014
twnovel:079
早く逃げて、頭を守って。そう言われて私はセーラー服の襟を立てて窓から見える校庭に背を向けた。私を指差し可愛いと笑う級友たちを押し退けて走る。校庭で爆発音がした。あなたを捜す。あなたを捜す。あなたを捜す。私の頭がきんと鳴る。
12月 19, 2014
twnovel:078
うっすらと瞼を上げるまでもなく、狂おしい音がする。光に満ちた廊下に素足を浸し、急ぎ抜けてその部屋へと入った。おかえりなさい、と椅子の上の空気を抱 きしめる。懐かしいこの音色は、生まれてきたときに溢れた祝福のオルガン。己が生まれる前に死んだ父の、音。おかえりなさい。
12月 18, 2014
twnovel:077
ぼくの遊園地で、ぼくは迷子になりました。ぼくの遊園地にはぼくしかおりません。ぼくの遊園地ではぼくが毎日殖えていきます。ぼくの遊園地で、ぼくはあなたを待っています。あなたがぼくを見つけてくれる日を、待っています。
12月 18, 2014
twnovel:076
あの美しさを他になんと喩えよう。遺体を写真に撮り続けるなど不謹慎極まりないのだろう、死に魅了された未熟者だと皆に謗られるのだろう、併しきみ、森閑 とした安置所のあのひとの遺体はそれはもう綺麗で、綺麗で綺麗できれいできれいでわたしはもうねむることもわすれてしまった。
12月 10, 2014
twnovel:075
私の夫は少し不思議だ。「本当は君、異星人だったりしないの」初めてのデートの日そう訊いてきた。子供ができたと告げた日は「この子、もしかして角があっ たりして」と言った。何か気になることがあるのかと尋ねても、いつも夫は首を横に振る。「何でもない」と、携帯電話を片手に。
12月 10, 2014
twnovel:074
忘れ去られたこの村は、樹氷が立ち並ぶことで有名だ。荘厳に無音の中聳える樹氷。代々観光案内をする一族の青年は「実は冬以外にも樹氷はあのままで、更に 本当は樹氷ではなくて、前時代に生きた神々が行進した姿のまま凍ったもの、ですけれど」と悲しく笑むが、騒ぐ客には届かない。
12月 1, 2014
twnovel:073
生まれる前の命は胎児ではなく成人の姿をしているのであった。生まれるのを待っているのだ。死者も生者も彼らには等しく無意味である。或る日そこに生者が 現れ誰が己の子に相応しいか選び始めた。生まれる前の命は一斉に侵入者を見詰める。侵入者は転がるように異界から、逃げる。
12月 1, 2014
twnovel:072
友人の家では毎日、塵箱から猫が一匹生まれるらしい。「こんな超常現象どうすれば起こせるんだ」呆れて問うと友は瞠目した。「何もしていないさ。それより これが超常だって? 他の家もこうだと思っていた」見詰めあう我々の背後で、ぴょこん、また一匹仔猫が塵箱から吐き出される。
12月 1, 2014
twnovel:071
生まれたときのろいをかけられました。嬉しいとき笑顔になるのろいをかけられました。悲しいとき涙が出るのろいをかけられました。思うまま手足を動かせる のろいをかけられました。ひとを好きになるのろいをかけられました。いつか死ぬのろいをかけられました。僕を助けて下さい。
12月 1, 2014
twnovel:070
その葬式は高笑いする人々で溢れていた。小さな子供たちが棺に群がり中の花々を食べている。小さく咀嚼の音がする。哄笑に押し流される咀嚼音。その葬式は高笑いする人々で溢れかえっていた。いつ始まっていつ終わるのかは、誰も知らない。
12月 1, 2014
twnovel:069
人間を作る材料を教えてください。ある駅の伝言板にそう書き込みがあった。人々は無視をした。人間を作る材料を教えてください。その書き込みは日毎に増え た。人間を作る材料を教えてください。ある日その問いに答えがついた。次の日からその問いは、増えることをぱったりとやめた。
12月 1, 2014
twnovel:068
愛を告げてきた男どもをすげなく振ることがその少女の生き方だった。少女には野望がある。やらねばならぬことがあるのだ。そのために、今日も少女は男を傷つける。その涙を集めては、海に戻すために。
12月 1, 2014
twnovel:067
埋葬された人々が地下で文明を築き穏やかに暮らしていることを誰も知らない。来てみれば案外ここは住みやすい、と彼らは笑う。地上の生活の、なんと不便 だったことか! 皆も安心しておいで、泣くほどつらいならこちらにおいでと、墓参りに来る人々を今日も彼らはいとおしげに誘う。
12月 1, 2014
twnovel:066
骨に名前がびっしりと書かれている。先程火葬された骨だ。書かれている名はすべて同じで、筆跡も同じだった。訝しむ火葬係には見向きもせず、遺体を連れて きた若者が骨にかけよる。「毎晩おまじないをした甲斐があったよ。望み通り君は全部僕のものだ」陶然とした声に、骨が笑った。
12月 1, 2014
twnovel:065
あとひとり。あとひとり引きずり込めばわたしは地上にゆける。もう上半身のほとんどすべてが海水の上なのよ。あとひとり、誰か早く通りがからないかしら。海から顔を出して死にたがりを待つわたしの下では、たくさんの男たちが重なり合って眠っている。
12月 1, 2014
twnovel:064
さびしさという名の糸を、彼女はずっと巻いている。糸巻きは幾つあっても足ることを知らず、併し彼女は疲れた様子も見せずにずっと腕を動かしている。私は黙した儘、座り込み凝っとそれを見ているだけである。わたしのむねからたえまなくつむがれる、さびしさという名の糸。
12月 1, 2014
twnovel:063
君が手を空にひたす。掴んで撫でる。僕は胸を押さえ、蹲る。君が空を仰ぎ、その青に手をひたし、僕はくさはらに頽れて、君は掌で空を撫で、僕が胸をまた押さえ。息荒く涙まみれの僕を君が戸惑ったように振り返る。
君は今、僕のこころに触れている。
12月 1, 2014
twnovel:062
生まれるかどうか自分の意思で選べることを、今の人間は生後忘れてしまう。今生きているひとは皆、生まれる前に生まれたいと望んだのだ。それは忘れ去られ た真実で、今の人間は皆何も憶えていない。けれど私は憶えている。きみが生まれないと選んだ日を。きみが生まれなかった日を。
12月 1, 2014
twnovel:061
いつどこでどんな死に方をしてももう一度必ず出遭えるように、必死で壁一面のパネルを叩く。このコンピュータで来世を操れる筈なのだ。僕らが別たれて久し く、君のこれからを僕が知る術はない。だからまた出遭えるよう僕は、頬から落ちる雫もそのままに、壁のパネルを叩き続ける。
12月 1, 2014
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