twnovel:040
できないことといえば、今すぐ死ぬことと健康に生きていくこと、それに夜空を見上げることだ。船酔いする海好きな人がいるが、私は宇宙を見ると気絶してし まう人間だった。そんな私の隣で、今日も友人が星のことを教えてくれる。何万光年も先で死んだ星のこと、生まれた星のことを。
11月 1, 2014





twnovel:039
さて僕の知人にはラーメンで泳ぐ夢をみたなんて奴もいたが、僕は好物を食べようとした途端に目が覚めたなんて典型的な夢さえ見たことがない。僕の夢にはうしなわれたものばかりが現れる。それが何故うしなわれたものなのか分かるのかというと、目覚めた時僕が泣いているからである。
11月 1, 2014





twnovel:038
視認できないものを信じられない人が多すぎた為、愛を体現させる研究が始まり数年。今や愛は数値化される迄に至った。学校でも病院でも、職場でも市場でも、愛は計算、測量され、生成、消費される。「八十点以下だった人とは交際したくないわ」そうやって僕は、想い人に去られる。
11月 1, 2014





twnovel:037
機会があったので、子供の頃の僕に、今の僕がみている夢をひとさじ振舞った。小さな僕はそれを舐め取るとぼろぼろ涙をこぼしはじめる。はて昔の自分はこんな泣き方だったろうかと考えていると、小さな僕はしゃくりあげた。「おとなになると、こんなかなしいゆめばかりみるんだね」
11月 1, 2014





twnovel:036
脳みそから甘い糸を引っ張って、壜に詰めた。僕のみる夢はいつだって先の見えない色をしている。紅茶に入れてもパンに塗っても美味しくないジャムのよう だ。それでも僕は一度みた夢を一晩で消してしまいたくなくて、ずっと壜詰めにし続けている。背後に壜の塔が無言で立ち並ぶ。
11月 1, 2014





twnovel:035
赤子の声が聞こえる。赤子の声が聞こえる。一心不乱に机に向かい物語を書いては破りまた書いては破り、赤子の声が聞こえる。部屋の中は丸まった原稿用紙ま みれだ。生まれなかった物語まみれだ。赤子の声がやまない。私はいつの間にか筆を握ったまま壁に凭れ中空を見つめている。
11月 1, 2014





twnovel:034
さて自分の部屋のごみ箱は、これまで破り捨ててきた原稿用紙が山の如く詰め込んであって、それらには尽く日の目を見ることの叶わなかった物語たちが眠りを 強制されており、そろそろ焼却に出さねばならないのだが、近頃そこから物音がするので持ち上げて耳を当てた。これは胎動だ。
11月 1, 2014





twnovel:033
臓器提供にご協力を。最近『ひとを愛する臓器』が不足しているらしい。死後でなくとも他人に臓器を提供できる今、それでも一つしかないその器官を譲ること には抵抗がある。恋人はそんな俺にうっそりと笑んだ。それは失くした者の笑みだった。ばかだな、それじゃ鼬ごっこじゃないか。
11月 1, 2014





twnovel:032
やること成すこと賛辞を贈られ妬み嫉まれる男がいたそうだ。そんな人生つらかろと、友が男に言ったという。そこで男が言うことにゃ、他人のすること賞賛できず嫉妬もできない人間が、一番憐れで心配らしい。
11月 1, 2014






twnovel:031
楽しい魔術講座のお時間です。場合によっては望んだ結果がでませんがご了承を。さて、精神と肉体をワンセットご用意下さい。その人間が人生に於いて幸福を多く感じたならあなたの呪術は守護へ変容したことになりますが、苦痛を多く感じたならあなたの呪術は成功です。簡単でしょ?
11月 1, 2014





twnovel:030
どうしてそんなに毎日楽しそうなの、と精神を患った姉は泣く。あなたは好き勝手やれていいわね、羨ましい、私は何をどうやっても苦しくてつまらなくってしょうがない、そう言うのだ。残念だけどもお姉さん、貴女が一番つまらない。
11月 1, 2014





twnovel:029
言いたいことがあるんだが、兄さんあんたを赦さない。きっと死んでも赦さない。兄さんあんたは忘れたろうが、僕はずうっと憶えてる。あんたは僕のトラウマなんだ。聞こえてなくても構わない、地面の下ならしょうがない、ところで言いたいことがあるんだが、
11月 1, 2014





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運動も出来て才色兼備、絵も歌も得意な旧友が、今は文を書いているという。会いに行って読ませてもらったがそれはもう酷い出来だった。「何故この道を行く んだ。得意なものは他に沢山あるだろう」問うと彼は寂しげに目を伏せる。「惹かれてしまったんだ。どうしようもないのだよ」
11月 1, 2014





twnovel:027
蛞蝓のような猫と暮したことがある。身の丈四丈、巨大である。その巨大な蛞蝓猫は鬱金香の花弁を好んでよく食べた。巨大な蛞蝓猫は泰然としておりまた寡黙 であった。私と相性がよかった。しかし巨大な蛞蝓猫は、知人の旅行土産の塩を被って死んだ。私はその知人を未だ許していない。
11月 1, 2014





twnovel:026
残念、僕の心臓は右にあるのだよ、どうかそんなに驚かないでくれ、一撃で死ねない僕もつらいのだ。
11月 1, 2014





twnovel:025
なんでも許される券、を近所の小学生が発行した。お遊びで作ったものだがあれよあれよという間に有名になりついには有料化したのだ。私は街をせかせか歩く サラリーマンにインタビューをする。彼は言う。「毎日購入してますよ。今は持ってないと息もできなくて」成る程これが人間か。
11月 1, 2014





twnovel:024
就業時間中にも関わらず、ある部下が今朝からずっと小説を書き続けている。社会人としてそういう行動は休憩時間になってからにしてほしい。その旨を伝えると彼はこうのたまった。「死ぬ時後悔したくないんですよ。ところで先輩、あと五分で隕石がここに落ちるって知らないんですか」
11月 1, 2014





twnovel:023
『嘘つき講座』に通いライセンスを取得したが、どうも腑に落ちない。こんなものを掲げていたら、嘘をついたときに自分が嘘つきだとすぐ知られてしまうじゃないか。「知られたほうが特な場合の嘘もあるんですよ」そのライセンス、大事にして下さいね、と講師がウインクした。
11月 1, 2014





twnovel:022
「無闇矢鱈と文章を書くな」という法律ができた。というのも、人類はこれまでの方法で子孫を残せなくなってしまい、その代わりのように、書いた文章が人格 と肉体とをもつようになったからである。けれども人類は書くことを簡単にやめられない。今日もまた文章だった人が増えてゆく。
11月 1, 2014





twnovel:021
「手を合わせなさい。ここは墓場」そんな看板が通学路の途中にあった。通行人すべてがそこを通る瞬間こうべをたれる。一体誰の墓なんだろう。十二歳のとき 初めて僕も手を合わせてみて、そして僕は何故そこにそんな看板があるのか、その理由を知ってしまった。――ここは僕らの墓だ。
11月 1, 2014