twnovel:020
知らないのか。君の其れは暴力だ。如何してそんなに僕をぐずぐずにしようとする? このままじゃあ僕は、僕は、いつか屹度死んでしまう、君が愛と呼ぶもの に殺されてしまう。君の愛で息継ぎが出来ず僕は泣く。そうして君が優しくわらうのだ、私達は殺しあっているのだよ、と言って。
10月 1, 2014





twnovel:019
つみれ汁を下さい。そう頼むと定食屋の女将は「つみれには猫の骨が入っているよ」と返してきた。頷きながらぼくは、いつから猫は食材になったのか、考えて いた。出されたつみれの中の骨はししゃものように細く白かった。ししゃものように小さな猫。ぼくは咀嚼する。昼がすぎていく。
9月 1, 2014





twnovel:018
すべてが足りている存在になろうと思った。動く上半身と動かない下半身、毛のない右足と毛のある左足。長い前髪と短い後ろ髪。半分スカートで半分ズボン。 半笑いで半泣き。片目を閉じもう片目を見開き、ぼくはじぶんの生死がわからなくなった。ぼくはさみしくなくなった。やった。
9月 1, 2014





twnovel:017
裏切るためにここにいるのです。けれど傷をつけるためではないのです。
9月 1, 2014





twnovel:016
使い古された二字熟語でぼくを表すならば、屹度ぼくは「後悔」という名前だ。ぼくに関わったひとすべてがぼくに関わったことを何れ後悔するからだ。ぼくは後悔なんてしないのに、どんなことが起きても、ぜったいに。
9月 1, 2014





twnovel:015
ぼくがこのまま水底に沈んでも 君は静謐に佇んでいる それがどんなに幸福なことか
8月 1, 2014





twnovel:014
世界がそっくり入れ替わってしまったのだよ。だから僕は、生きていることを常に責められ同情されるのだ。かわいそうに、まだしんでいないんですって、という具合に。
8月 1, 2014





twnovel:013
「罰と赦しは同じでございます。今の彼を彼たらしめているのは、わたしに対する彼の罪ではないかとわたしは思うのです。ですから、わたしが彼に罰を与えてしまうという行為は、彼の存在の崩壊を導く行為と同義なのではないでしょうか。」
8月 1, 2014





twnovel:012
この貝を割ろうと思う。幸福が出てくるようにひとつひとつ呪いをこめて、今日この貝を割る。姉たちの長い髪、喉からもれる掠れた吐息。自由に海のそこを歩 いていたのに、この大地ではまるで泳いでいるようだ。誰の血も浴びたくは無い、飲みたくもない。それだけだ、貝を割る理由は。
8月 1, 2014






twnovel:011
どこにでもあるような遠い遠い夢。
そこかしこに父親が立っているのが見える。
自分の顔が嫌いだ。鏡を見ても他人しか映らないから、僕は自分の顔を知らない。ぐちゃぐちゃに顔を潰したい。
生きていることに免罪符は要らないのに、いつだって作り出してしまうのが僕たちだ。
7月 1, 2014





twnovel:010
どんなに幸福を感じてもすぐに疑心暗鬼になり手放してしまう僕に、"幸せソムリエ"が完璧な幸せを贈ってくれた。けれど僕は幸せに関してとんと疎いのでそれが本当に僕に相応しいのか分からない。「そう、それも正解。分からないで手放してしまうことも幸福です」と彼は言う。
7月 1, 2014





twnovel:009
ぶかぶかの指輪を見て僕は笑った。失くしたらどうしよう。彼女の笑顔からはそんな涙が見え隠れしていた。「失くしてもいいよ。何度でも生き返って、何度で も渡しに来るさ」僕はそう言って笑った。きっと数ヵ月後に厭でも僕はまた、彼女をこの夏へ置き去りにしてしまうんだろう。
7月 1, 2014





twnovel:008
君の声を特別に聞き分けられるように、耳を五つに増やした。友人の声専用、家族の声専用、他人の声専用、そして君の声専用と僕自身の声専用。次第に君専用の耳に何も聞こえなくなった。僕自身の声が聞こえる五つ目の耳の中が一番、さわがしかった。
6月 1, 2014





twnovel:007
星になることと星であることの胸のつぶれる理由が、分かるかね。いいや分かるものか、と僕の部屋に転がる星たちが静かに言った。人間でも星になれるのかと問うと彼らは沈黙する。大小さまざま色とりどりに転がる彼らは、夜になっても天上へ帰ってはいかない。
6月 1, 2014





twnovel:006
星といえば星屋にしか売っていないのが相場だ。由緒正しき星屋の古めかしさと星の正しさは比例する。けれど最近は、僕の通うスーパーでも星を売るように なった。「どれがいい。負けつけとくよ」豪快に青い球体を叩き割る調理人の前で僕は、ずらりと並ぶパック詰めの星を見ていた。
6月 1, 2014





twnovel:005
透明な少女がこちらを見つめている。透明なら見えないじゃあないか、と言われても、見えるのである。何故見えるのかというと、彼女の中にたっぷりと紅茶が入っているからだ。ゆらゆら琥珀色を波立たせ、彼女は涼やかに僕に笑う。「紅茶は如何?」
6月 1, 2014





twnovel:004
給食の時間に、神さまが転校生を笑わせていた。あとをついてまわるくらいに神さまを好きで、守りたいと決めるほど転校生を好いていた僕は、どちらにもなりたくて席が遠いのを呪った。いつになく上機嫌に寒いジョークを飛ばす神さまと、無垢に笑う転校生を見ているだけだった。
6月 1, 2014





twnovel:003
不眠不休のブラック企業に扱き使われている細胞。血と肉と神経。脳と心臓でありました。タダ働きに見せかけて何かあるのかね。
6月 1, 2014





twnovel:002
「何のために、生まれてきてしまったんですか?」「何のためにも、生まれてきておりません。」
6月 1, 2014





twnovel:001
へこんだガードレールに額を擦り付ける。乾いた砂がそろそろと崩れていって目の上を通っていった、それを目で追い拳をアスファルトに打ち付けた。きれいな においがする。これは何処だろう、何処の景色だろう。安っぽい白が視界を埋めていた。「また明日ね」の声が、僕はきらいだ。
6月 1, 2014