僕の神話:120
手紙を書けなくなって数年、ぼくは今年もひとりでチーズケーキを作る。十年もののさくらのジャム、はちみつ入りのホットミルク。ふたりぶん整える。何が罪だろう、白薔薇はゆれて、ケーキはこんなにおいしいのに、神さまはいない。なんでも先に経てしまう、あなたはぼくのプロメテウス。
5月 24, 2016





僕の神話:119
「さよなら、」鼻先で閉まっていくドア、ああ、まただ、ぼくの体はずるずるさがる。さいごに見たのは神さまのこれ以上ないほほえみ。何回目になるだろう。手探りで鍵を出して、ついさっき閉ざされたドアを開ける。何回目だろう、何事もなかったかのように神さまは言う。「おかえりなさい」
2月 3, 2016





僕の神話:118
凍ったポストをこじ開けたらそこに身の丈てのひらほどの神さまがいた。ぼくらの出会った年数分、ぼくが眠った回数分、神さまは小さくなる。とめられないか訊くと、そういうものですから、と返ってきた。それでも毎年来てくれる、細胞よりはどうか、小さくならないで。
1月 1, 2016





僕の神話:117
生きることがただ苦痛でしかなくなったらどうするかを、切符に記して、神さまはぼくの手へ落とす。ぼくの初めて書いた物語を忘れてしまった相手に、そんなことをさとされたくはなかった。時計の鍵のありかを知っていても黙するぼくらは雪の檻、切符の骨をなぞり続ける。
12月 31, 2015





僕の神話:116
神さま
しろいはながさいたよ
そういってぼくはふりかえる
ばらじゃないといいね
ぼくはぼくへそうかえす
なんでぼくがみているのに
ふりかえるのもぼくなんだろう
どうしてあなたのこえがきこえないのかな
なぜいってしまったの
ぼくもつれていくっていったのに
神さま
11月 28, 2015