僕の神話:115
知りたいのに知るのがこわい、ことがある。
朝窓に置いた鉢の花がいつ咲くかとか、フルーツをまるごと入れた紅茶のレシピとか、そういうのはいいんだ。
尋ねるのがこわいのに尋ねたい、ことがある。
じょうろを傾けるぼくのうしろ、神さまはそしらぬ顔でページをめくっていく。
11月 25, 2015





僕の神話:114
供養は必要なことなんですよ、とは神さまの言だ。「昔のくるしみが今もこころを巡るなら、一度といわず何度でも、みなに言っておしまいなさい。そうして初めて空気にとけて、あなたに還れるものもあります」ぼくにはあなただけいればいいのに。 神さまは、暗く笑っただけだった。
11月 25, 2015





僕の神話:113
なみだの化石をそっと手紙にしのばせる行為。不幸ぶるようでためらい、自意識過剰だと言われそうで怯え、相手を不快にさせたくなくてたじろぐ。それでも知ってほしいとあさましく思ってしまうのはなぜかな。「それは、あなたがそのひとを、」神さまは黙りこむ。神さま、ごめんね。
11月 25, 2015





僕の神話:112
いつから望みは呪いになってしまったんだろう。おまじないですよ、そう言いかわして、ぼくと神さまの鎖骨がつながる。せっかく結んだ願いは、今や足首まで落ちて絡まるばかりで、これじゃのろいでしかない。 神さまは諦めたように言うんだ、初めからすべてが呪いでしたよ、って。
11月 23, 2015





僕の神話:111
きえてゆくいのちばかりがもてはやされ、残されたぼくは平和にふてくされる。かれらに同情することも、愛することもできず、怒りも抱けないままで、ただ、さびしい。神さまはずっと上を見ている。普段ならば気にしないはずの、神さまが踏みつぶしたもうひとりのぼくが昇るさまを。
11月 19, 2015





僕の神話:110
この白い部屋にはどうしても動かない時計があって、ぼくはそれを手の中で跳ねさせている。不便じゃないけど、どうしたら動くんでしょう、ぼくの問いに、神さまは笑うばかりだ。「壊れてなんかいません。動かすのは簡単です。ただ、」あなた、ほんとうに、動かす覚悟はありますか。
11月 18, 2015





僕の神話:109
ばたばたと口から涙がこばれ落ちるのは、ぼくの四肢がばらばらになってしまったからだ。ぼくの腕と脚を束ねて花瓶に飾るあなたに、あの時忘れたふりをしていたのか、ほんとうに忘れてしまっていたのかを訊きたかった。どちらも神さまらしいことには代わりはないのだけれど。
11月 14, 2015





僕の神話:108
ここにいま、触れられるほどそばにいてくれるひとが、ほんとうに存在しているのかどうか、ぼくにはわからないんだ。たすけての言葉を覚える前に波が来て、神さまは沈黙する。もし世界が終わるときは一番最初に戻るから、と約束した。一番最初、神さまのとなり、そこが一番さいごの居場所。
11月 11, 2015





僕の神話:107
もしも天国というものがあるなら、そこには神さまはいないんだと思っている。そこへぼくが無事にいけるかどうかは、まだわからないけれど、そんな気がするんだ。でも神さまがいなくたって、ぼくはきっと神さまを捜してしまうだろうし、だから結局そこがぼくの天国なんだろう。
9月 4, 2015






僕の神話:106
いま、神さまがここにいなくてよかったと思う もし、神さまがいま隣にいたとしたら ぼくはそのほねをけずって 杖にしてしまうだろうからだ ぼくはあのひとの、せぼねとろっこつのすべらかさをしっている お菓子のようなやさしさ 神さまがいま、ここにいなくてよかった これでいいはずなのに
9月 2, 2015





僕の神話:105
何があってもいつだって、だいじょうぶ、とぼくは言う。神さま、ぼくはだいじょうぶ。それなのに急に、だいじょうぶがぼくから消えた。もともとなかったみたいに。音の伴わないだいじょうぶをぼくは繰り返す。ないと、だせない。これじゃ言えない。誰かぼくに、だいじょうぶ、って言って、(そそいで)
8月 28, 2015





僕の神話:104
ぼくがなくしてしまっていた声を、打ち上げ花火の隙間から、神さまは見つけてくれた。それがないと神さまを呼べないから、気持ちを伝えられないから、ぼくは慌てて受け取りに走る。神さまは神妙に、ぼくの声をてのひらの中であたためていた。一番最初に言うことは、とっくに決まっている。
8月 26, 2015





僕の神話:103
土手の上でぼくと神さまは手を取り合った。ぼくらが笑えば、人混みも花火も遠い背景になる。嘘だってつくんだ。今夜だけ、ぼくにも神さまにも両親がいる。だからいつまででも、こんな夜遅くになっても、花火の前で踊れるのだ。今日だけは嘘をついていい。四月一日より、やさしい日。
8月 26, 2015





僕の神話:102
撮らないで。ぼくの頼みを無視して神さまはシャッターを切る。撮らないで。神さまの笑顔は終わらない。現像したあとがこわかった。今すぐカメラを奪って、フィルムをめちゃくちゃにしてしまいたかった。出来上がった写真には、着崩れた浴衣姿のぼくだけが写る。

ぼくから神さまを、とらないで。
8月 8, 2015





僕の神話:101
昔、ぼくは今よりぼくだった。ぼくはぼくじゃなかったからこそ、なおさら、ぼくだった。ぼくはもっとぼくでありたい。そうでなくちゃならない。ぼくはぼくになりたい。希釈液だらけの今のぼく。昔のぼくは、本当に、今のぼくより、ぼくだった。でも、昔って、いつのことだろう。
7月 12, 2015





僕の神話:150621-2
土煙をあげてバスが通っていくけど、ぼくらは急ぐでもなくのんびりと田舎道を歩いている。神さま、言ってはいけない。そんな顔で、そんな言葉で表してはいけない。それは終わりの言葉です。すべて終わらせる呪文です。「ねえ、そろそろ」くたびれたコンクリート、ああ、崩壊の足音だ。
6月 21, 2015





僕の神話:150621-1
これでしばったつもりなんだろうか。首にからむ、ほそい銀のチェーンを、ぼくはこっそりと指でさぐる。なんだって喜んで受け取っていたぼくが、はじめて顔をくもらせた日だった。「本当のおくりものは、また、本当の日に」疲れた海鳴りを背負い、神さまは笑っている。あなたは遠い。
6月 21, 2015





僕の神話:100
ちらちら舞うものを気にも留めずに、フローリングへよこたわる。あまりにすべらかなすべてから神さまの香りが立っていて、もう、ぼくらが存在していることさえおかしいみたいだ。神さまの隣で眠ると夢をみないんです。もうにどとなんのゆめもみたくない、息の届く場所でいのりつづける。
6月 20, 2015





僕の神話:099
ぶつ、と音を立て、画鋲が写真にめりこんでゆく。「皆さん、どうしてこういうの、したくなるんでしょう」神さまはふしぎそうに、教室の前に貼られた写真へ画鋲をさしていく。全員の顔に穴があいて、無傷で残ったぼくと神さまが、こっちのぼくらをとがめるようにほほえんでいた。
6月 18, 2015





僕の神話:098
神さま、あなたのことを、神様だと思うと、ぼくはぼくであっていいような気持ちになりました。あなたがほんとうに神様ならば、どうしてあなたほどのかたがぼくをみそめたのか、おしえて。単に面白そうだったからです、なんて、わらわないで。ぼくがあなたを軽蔑するまえに。
6月 18, 2015