僕の神話:097
結局のところ、ぼくにとっての免罪符は神さまだったんだと思う。呼吸も愛も生も何もかもが罪だったぼくには神さまが必要だった。だれかをしたじきにするような勢いで、オルガンのペダルへのせた足にちからをこめる。このカノンが、廊下にいる神さまに、どうか届きませんように。
6月 18, 2015





僕の神話:096
ボトルメールって、ロマンがあります。昔ぼくは神さまにそう言ったことがあって、だから神さまのほねが内部に組み立てられた浅葱の小瓶を波に手渡すことにする。透きとおる海水に浮かぶ、こころもとない、まろやかなしろ。あの瓶を受け取るだれかもぼくならいいのに、そう思った。
6月 17, 2015





僕の神話:095
ボトルシップって、ロマンがありますね。昔そう言われたことがあったので、ぼくはこなごなになってしまった神さまのほねを、小さくあおいボトルの中で組み立てていくことにした。そして想像する、神さまのほねが、船になって、海の上をすべってゆくのを。ええ、ロマンがありますね。
6月 17, 2015





僕の神話:094
タンスを開ける、食器棚を開く、机のひきだしをひく、本棚をあさる、ひとつひとつ、パーツがそろってゆく、ぼくらの隠した犠牲者の、腕や脚や心臓が。中身をとりだしおわった棚たちは色彩を失っていく。ぼくらは認めなくちゃならない、このあしもとにあるのは影だけじゃないことを。
6月 17, 2015





僕の神話:093
よく声のとおるリノリウムの廊下で、ある者が生まれを呪った。またある者は家族を呪い、また他の者は社会を呪い、ある者は体を呪った。そうして最後にみんなが胸を押さえて自分自身を呪いだした。ただみどりいろがはためいては蝶になり、ダム湖の上をすべってゆくだけだった。
6月 12, 2015





僕の神話:092
あの日あなたのとなりで青にあこがれたのはこのぼくだ。おぼえてるはずだ何か言え聞こえてるくせに、無視は、無視だけはしないでくれおねがいだ! 「きらうどころかあなたに興味ももてません。では」待ってくれ。それでいい、それを毎日言ってくれ。ぼくは毎日あなたに好きだと言うから。
6月 12, 2015





僕の神話:091
忘れないでいようと思った。神さまが神さまじゃなかったときのこと、ぼくがぼくでなかったときのこと。忘れずに生きようと誓った。こころがふたつにさけたひのこと、みんながわらっていたひのこと。ずっとおぼえていようと思っていたのに。雨は桜を押し流し、柳と藤を揺らし、月の下でみずうみになる。
6月 12, 2015





僕の神話:090
ぽたり、音がするのはなぜだろう。どこかへ消えてしまう車と蝉のなげきを背景に、ぼくの影がひとりだけ、くっきりとアスファルトに立っている。こんなひでりの安息日には高級なアイスクリームがふさわしい気がした。神さま、迎えにきてほしかったのに、なんて、とても言えない、ぽたり。
6月 12, 2015





僕の神話:089
「忘れましたか」いつもより倦怠的な微笑に他の何かを含ませて、神さまが口火を切る。忘れていません、今だって、ぼくはあなたとカタツムリの殻を奥に進んでいます。「認めてしまえばいいのに」足元が、割れそうだ。
6月 11, 2015






僕の神話:088
神さまは瞳のなかにうすらいを飼っている。いつもそのつめたさ越しにぼくは見つめられているのだけれど、それがとけさる瞬間も、ぼくは確かに知っている。ぼくらの輪郭が消えるとき、神さまのうすらいは雨になってぼくらを隠すのだ。
6月 11, 2015





僕の神話:087
純度の高い自分になるために何もかもがある。洗面器のみなもからこちらを見つめるそのくびへ手を伸ばし、しめあげられ苦痛をおぼえるほど純度が高くなるのを感じた。だれかが、ないているのが、きこえる。より純度の高い自分。
6月 9, 2015





僕の神話:086
ほほをはられたこどもの顔をしている大地の上に、白がはためく。水田をぬけるのにてまどったぼくへ神さまは、帽子を目深に被ってないなんて珍しいですねと言った。なまぬるくてやりきれない息が一陣、苗とぼくと白を揺らしていく。
6月 8, 2015





僕の神話:150521-2
まっしろなネックレスが足首にまとわりついては去っていく。だいじょうぶですよ、よしよし、がんばりました、そう呟かれている気がして、ただ白い花束を今日になげた。返したかった、なにもかも、もらってばかりの波の上。今すぐになんにだってなってやる。あなたに会えるのならば。
5月 21, 2015





僕の神話:150521-1
みあげた空は神さま色だ。雪がくびすじを這う日も、花びらが肌に越してくる日も、世界の水がぼくと神さまの足を濡らす日も、ふたりはいつも一緒だった。この背中のうしろ、芝生の奥には、ぼくらにふみつけられぼくらを憎むいのちはどのくらいいるんだろう。ほほえまないでよ。
5月 21, 2015





僕の神話:085
岩に腰掛けて、石の隙間から流れるつめたさに足をのせる。それは本当に、してはいけないことのようで、ぼくはあめんぼを運ぶひかりだけみつめていた。平日の公園、昼食時のロックガーデンにはだれもいない。みずを挟んだ反対側で、物言いたげにしている神さま以外には。
5月 20, 2015





僕の神話:084
突き抜けた空の下、ひょうたんの形をした池の向こう、白い布がはためくのを手を繋ぎ見つめている。水色の塗装がはげたベンチは何年経ってもそのままで、それなのにあの日確かにらくがきしたはずの言葉はきれいに消されていた。茶色になる桜の次、藤の季節がくる。
5月 17, 2015





僕の神話:083
はい、焼き鱈子のおむすび。トマトも食べて。重箱を開いてサラダと唐揚げをつまんだ。やめませんか、と、のりを口元につけたまま神さまが言う。「確かにこれから先何回も一緒にこうして花見をしようと約束しました、けれどもうあなたは」ぼくにはその先が、聞こえない。
5月 17, 2015





僕の神話:082
お花見スポットと言ったら杉の木の下だ。何かおかしいですよね、なんてのんびりしている神さまをひっぱって、ぼくは浮かれた人の波を渡っていく。桜の公園の真ん中に場違いな杉が一本。ここが一番いい。ぼくらの他に誰もいないし、こうすれば杉も孤独じゃなくなるのだから。
5月 17, 2015





僕の神話:081
「生きていたらまた会える、そんな夢を本気にしましたか。生きる意味を他者に求めすぎたあなたはそんなにぼろぼろで、訊かなくたって、生きたいという漠然とした欲望だけで、それだけで大丈夫なのに、息をしていい免罪符になるのに、訊いたばかりに、訊いたばかりにあなたは」
5月 4, 2015





僕の神話:081
「クッキーが食べたいです」わかりました。そう答えてからぼくは神さまの口をあけて、その中に溶かしたバターと砂糖、篩った薄力粉と溶き卵をそそぎこむ。神さまののぞむもの、ぜんぶあげますから、黙っていてください。今、ぼくはあなたの声をききたくない。
4月 15, 2015