僕の神話:080
ぼくをうらんでいて。「いやですよ、そんな体力使うことしたくありません」じゃあずっとすきでいて。「無理です。だってあなた、もうじき消えてしまう」だったら、だったらいっそ、忘れてください。「できません。あなたみたいな強烈なひと、忘れたくても忘れられないから」
4月 8, 2015





僕の神話:079
「あなた、いつも被害者面ですね」ひとを知るたび呪いも増えることがいやだった。ほしいのは神さまの呪いだけ。ひらめく若草は真綿のささやきに押し流される。「あなたのエゴでこんな存在になってしまった。こちらこそ信じていたかったのに、あなたとの夢を、ずっと」
4月 7, 2015





僕の神話:078
住む世界が違うのだと優しく、やさしく、突き放された気がした。ぼくは気が狂ってしまったんだろうか、自問、そうだおかしい、自答。それならば間違いなんだ、生きていることも生まれてきたことも、神さまを忘れられないことも、今ここでこうして言葉を綴っていることも。
3月 28, 2015





僕の神話:077
一ヶ月咲き続ける桜ができたと聞いて、神さまのはなった言葉は「そんなに狂いたいなんて」、だった。「一年間十年間と咲く桜ができたら皆さんどうなるんでしょう」早く散るから美しいなんて思わない、美しいものはどうなってもきれいだ。ただぼくらがその分、狂うだけ。
3月 23, 2015





僕の神話:076
ぼくの「好き」の気持ちは、好意の向かう対象だけが知っていれば充分。たとえば神さまと観た映画、浄土の海の透明さ、彼の昔の呼び名、誰にも教えたくない。知られたくないんだ。ぼくが口端に上らせるだけで心臓に亀裂が走るのだから、どうか誰も知ろうとしないで。
3月 22, 2015





僕の神話:075
「愛しているとかごめんなさいとか、そんな言葉や感情が、あなたが息をしていい免罪符になるとでも思っているんですか」今日も世界は針製だ。神さまが投げたクッションをぼくは血まみれになりながら抱きしめた。雨のなか踊るテレビに、ぼくたちが反射している。
3月 20, 2015





僕の神話:074
めでたいことがあるとぼくはよくガトーショコラを焼いた。「他に食べたいお菓子、ありますか」改めて訊けば、神さまは「チーズケーキかな」と呟いた。必ず作る、必ず食べると約束し、残されたのは綺麗なままのお皿とフォークと、ひとりぶんの椅子。見つめるぼくの視線。
3月 18, 2015





僕の神話:073
珍しく神さまが物騒なものを持っていると思っていたらそれが目の横に突き刺さった。轟音。こういうのをやるのはもっぱらぼくのほうなのに、今日はどうしたことだろう。銀の刃から視線を正面へ移す。――待って、ぼくよりも神さまのほうが、なぜ、そんな表情なんですか。
3月 10, 2015





僕の神話:072
だいじなものをしまうため、あらゆる植物や鉱石を集めてきたぼくに、神さまが何か言う。「出入口がなければ牢です。あなたは箱、部屋、籠、どれを造るのでしょう。何を入れるのでしょうか」首を傾げると目を伏せられた。今日のぼくは、なぜか神さまの声が聞こえない。
3月 8, 2015






僕の神話:071
ぼくには自分の顔がわからない。ぼくは自分の声を聞けない。ぼくの瞳をぼくは見られない。ぼくは自分の名を知らない。ぼくは明日をぼくに保証してやれない。それでもひとつ、はっきりしていることがある。神さまあなたに会いたいその一念でぼくはここに、立っている。
3月 3, 2015





僕の神話:070
抱き合った体勢は、互いの顔が見えないからこそ涙を流すのに丁度いいと思った。けれどその考えは誤りで、雫は頬と顎を伝い神さまの肩に染みを作る。神さまが気づいたかは知らない、でも、ぼくはその瞬間、ああ、汚してしまった、と思ったのだ。――ぼくの涙で汚れた神さま。 3月 1, 2015





僕の神話:069
もしもぼくがきえたら、そこのひと、ねえ、ぼくのかわりにぼくになってくださいね。ぼくのすべてを、そっくりそのままおなじにして、いきてください。ぼくというそんざいがえいえんになりますように、おわらずにまた、ぼくとあのひとがあえますように。ぼくらがおわらないように。
2月 17, 2015





僕の神話:068
繋がった手、裁断します。ひょんなことで神さまと手がくっつき離れなくなった、ぼくの目に映ったのはそんな看板だった。ちょうどいいと神さまを振り返る、その向こうにもう一人のぼくがいる。こちらを見つめる瞳。本当にいいの。その更に向こうに、膝を折るぼくがいた。
2月 12, 2015





僕の神話:067
ぼくと神さまは身長の都合、校庭や公園にあるうんていにぶらさがれたためしがない。膝を曲げろと周囲に言われ、仕方なくやったがつらかった。ぼくらにとってうんていは遊具ではなく、星や硝子玉や藤の房のさがる聖域だ。その下をくぐり出逢うとき、ぼくらは少し、素直になれる。
2月 10, 2015





僕の神話:066
最後の日: もし、ぼくらのことを他人に伝えるため何かしたら、ぼくと神さまはどうなるのだろう。他人の記憶に宿ることで、今のぼくらとはまた異なった永遠になるのだろうか。徒らに続くことは歪むこと。どうせ歪みゆくのなら、ぼくらだけではなく、すべてを道連れにしたかった。
2月 10, 2015





僕の神話:065
つないだ手の先を見上げても神さまの顔がない。消えてしまった微笑みをぼんやり見つめているこの目元に、降ってくる彼の優しさを感じてしまうぼくは、随分と彼に侵食されている。神さまが消えても、消えないものがあるということは、しあわせなことのかそれとも。
2月 9, 2015





僕の神話:064
むき出しになったぼくの頭骨にひらり落ちるはなびらをそっと摘まんでくれたその指を切り落として新しいはなびらにしたかった。舞うものより薄く嗤うぼくのこころは、桜色でも銀色でもない。あなたの咽に花弁を詰めてその吐息を終わらせ、凍る白に閉じ込める、そんな夢だけをみる。
2月 8, 2015





僕の神話:063
雪原に満開の桜。おしまいだと叫び、骨が出るほど額を幹で擦るぼくと、舞うプラチナ、うすべに。まばゆい雲だけが占める空を神さまは見上げている。愛しても消えない、憎んでも尚消えない鎖をひきずって生きるぼくには分からない。狂ったのは桜か雪か、それともぼくか、神さまか。
2月 8, 2015





僕の神話:062
痛かったでしょう、と神さまの白い手がぼくをなぜる。こんなに血を流したのだからそろそろぼくのところに来てほしい。「あなた、苦労すれば幸せになれると思い込んでいませんか」顔から火が出そうなぼくに更に声がかかる。「苦労しないで、幸せになっても責めませんよ」
2月 8, 2015





僕の神話:061
三重のガラスに阻まれて、ぼくらが触れ合えなくなった日に、あの人はやっぱり絹を食んだように口の端をあげてささやきを落とした。こちらにそんなものはありませんけどね、という言葉を受けてもガラスはとけない。それらはぼくのこぶしを待っているのだ、ただ敬虔に。
2月 5, 2015