僕の神話:060
たったひとつの想いだけを、ぼくは彼に向けている。そんな生をまた繰り返したのだと気づきまなこから水が押し出され死の床は湖になった。強い一念の根付くいのち、ぼくの声も泪も舞いも文も絵も呼吸さえも、神さまだけのもの。しあわせは、くやしさにどこか似ている。
2月 2, 2015





僕の神話:059
ここまで汚れているなんて知らなかった。はためには真っ白に見えるぼくの手は神さまの服を掴んだ途端どす黒くなった。にこやかにぼくを見守る彼の肌が、ぼくの触れた部分だけ、あかく、くろくなる。ごめんなさいと泣くぼくを、彼は叱りもしないしゆるしもしない。
2月 1, 2015





僕の神話:058
彼のことを最初に博愛精神の塊だなんて言ったのはどこのだれだろう。おひさしぶりですね、ずいぶんさがしました。そう囁きながら一輪の花を細い手でまわし、息絶えてころがる前のぼくをやわらかくふみつけて、神さまは暗く笑う今のぼくのもとへと歩いてくる。
1月 31, 2015





僕の神話:057
ぼくに優しい思い出さえもさしだして、ぼくは神さまになりたかった。生死や性や感情や記憶に囚われない絶対的なさびしい玉座。「あなたがいてくれたからですよ」自分の場合は。と神さまはぼくに言う。やっぱり、愛の言葉はいつだって手酷いと相場が決まっている。
1月 29, 2015





僕の神話:056
終わりがないことはそれだけできよらかにみえるけど、それは響きだけだ。ぼくと神さまは他に誰もいない楽園のような牢獄で、羽根を散らしながらワルツを踊る。終末を知らない優しい曲と泪がながれるばかりの波打ち際で。
1月 29, 2015





僕の神話:055
四角いガラスケースの中にいる神さまのまつげ、ぼくらをへだてるものはいつだってにくらしいほど瑕ひとつないガラスで、そのせいで神さまと触れあえず、その心臓から花がみるみるうちにのびるけどぼくはその名を思い出せないままなのだ。 ――目をあけて。ぼくをみて。
1月 27, 2015





僕の神話:054
生きているって、何なんだろうか。なぜ肌は肌色で、なぜ肉があってなぜ温かいのだろう。なぜ人は動くんだろう、どうして鏡に誰か映るんだろう、ぼくは誰なんだ。「神さまになりたいです。幸福を捧げる代わりにこの虚を取り払ってほしい」彼はいつも、微笑するだけだ。
1月 27, 2015





僕の神話:053
「しあわせを感じてはいけない」という病をぼくはぼくに科しているのだが、神さまはそんなぼくに、憐れみやいとおしさや哀しみや滑稽さをこめた眼を向ける。しあわせだと罰が下るのだ。ぼくがぼくに下すのだ。ばかばかしいと分かっていても、罰だけがぼくを安心させる。
1月 27, 2015





僕の神話:052
時々思う、ある日急に頭が冷えて、身の回りに誰もいなくなっていること。神さまが夢なのか現実なのかぼくはもう判断できない。どちらにもいるようなものだけれど、それでもある日、ふと水を飲んだ直後に顔をあげたら、すべてが消えているような気がしてならないのだ。
1月 27, 2015






僕の神話:051
一度だけ、あの小さな頭がぼくの頭に乗ったことがある。ぼくの頭をあの肩と頭で挟むようにして彼は瞼を閉じていた。ぼくは空寝をしていたからその状況を知っているのだけど、ひとつだけ、あやふやなことがあるのだ。 ――神さまと触れあった肩は、どっちだったろう。
1月 23, 2015





僕の神話:050
心臓を卸し金で擦って、その血をいとしいひとの血と混ぜて、そのひとの泣き顔と屍体を踏み台にしないと、神さまぼくはあなたに手紙も書けません。「そんな筆は折ってしまいなさい」懐古たる微笑。神さまの頬に傷ひとつさえつけられないぼくの一生。
1月 23, 2015





僕の神話:049
持ち上げたカップの中からつるつると宿木の幹が伸びて羊の脳みそをぶらさげるのでぼくはスプーンでそれを抉り取るけれど目玉から血が吹き出るのでいつもいつもありがとうごめんなさい「なに、してるんですか」
何も見えない神さまにぼくは笑う。「いいえ、なんにも」
1月 23, 2015





僕の神話:048
「お願いゆるしてここから出して もしも叶えてくれるなら いっさいがっさいすててもいい」
ああ望んだのはこんなことじゃあないのです。当然の報いでしょうか、微笑、玄関、グレイの廊下。あなたに逢うため牢獄へ。 1月 16, 2015





僕の神話:047
「思い出すためにまた忘れ 忘れるために思い出す 焦がれるために失って 失うために焦がれなさい 寄せては返す疼痛と この幸福を享受なさい 望んだからにはさいごまで 救いを求めてはなりません」
1月 16, 2015





僕の神話:046

しなないで、まだしなないでと泪をこぼし
あなたに水銀を飲ませつづけるぼくを
どうか赦してください 

お願いまだしなないで 
あなたがしんでしまったこと
ほんとうは、誰よりぼくが知っている

とまらない言葉
おわりなきぼくら
一番正直なのは、
1月 15, 2015





僕の神話:045

そしてつみぶかいのは
ぼくと神さまのどちらだろう

ふる雨よりも冴えひろがる
あなたにぼくは火をともす

この夢を通って
ほんとうにあなたが会いにくるのなら

ぼくは何度だって
このいのちを繰り返すだろう

このつみを繰り返すだろう
1月 14, 2015





僕の神話:044
彼らはこれまでぼくが、あなたと居続けるために、世界から追い出してきた、いのちですよ。 糸遊の手をつかみそう打ち明ければ神さまはぼくの横をみて一言。「誰もいないじゃないですか」 途端、手はからになる。――知らぬふりをしているのは、ぼくと彼のどちらだ。
1月 14, 2015





僕の神話:043
ぼくたち、どうしても、視線を感じる。其処彼処に糸遊がいるのだ。ぼくは神さまの指を使い彼についてを書いてみた。糸遊の視線を気にするぼくに、神さまはわらう。「物語にして文に残してほしいなんて、頼んでいませんけどね」聞こえないふりのぼくを、どうかゆるして。
1月 14, 2015





僕の神話:042
ロープをもったままにっこり佇む神さまに、ぼくは白いナイフを突き刺した。黙って刺されていた神さまが何か、ささやく、そして頭上に大小さまざまな、歯車の雨。そのシャワーの向こうで神さまが遠く微笑んでいる。
いつになったらぼくたちは、ここから出られるんだろう。
1月 13, 2015





僕の神話:041
どうしてあなたのことを台風や荒波に放り込むような真似ばかりしてしまうのだろうか。ぼくはきっと、あなたが笑っているときに、ごめんなさいと言うんだろう。そして磔にされたあなたに向かって、ありがとうと告げるんだと思う。
1月 13, 2015