わたしの鼓笛隊
ちいさな鼓笛隊
ひとりの鼓笛隊
わたしの鼓笛隊

小鳥 / 231021 / Repost is prohibited.





足りない足りない首なし魚、
足りない足りない足なし鶏、
足りない足りない皮なし馬、
急いでおいで、忘れものせず、諍いは終わる

にんげんの欠如

足りない足りない、頭が足りない、足がない
足りる日などは来やしない、
全躯のそとかわひんむいて、
組み上げ組み上げ絡繰細工、

完成だけはさせやせぬ

231010 / Repost is prohibited.





きれいがこわれる、あなたを結い上げる、またたきのあいだ、あなたがほつれゆく、あなたのきれいがこわれる、わたしのかいなのうちがわのできごと

きれい / 230910 / Repost is prohibited.





いのちの川を渡る
いのちの川を渡る
あなたの手をひいて
いのちの川を渡る

いのちの川 / 不可村 230828 / Repost is prohibited





心を動かされたとき
つたえたいと思うならば愛だ
つたえたい誰かへの愛なのだ

その誰かがいなくなったとき
愛はたちまち行き場を失って
あとにはさびしさが残される
さびしさは孤独を連れてくる

孤独の仮面をやさしくはぐと
孤独はいつでもさびしそうに
愛の顔をしている
愛する誰かを今も探している

孤独の仮面をはぐと / 不可村 230213 / Repost is prohibited





私はほしだったのだ
幾星霜を要するとても
やがてかならず舞い戻る
私は彗星だったらしい
未練の数だけ伸びる尾が
無遠慮に固い粒を蒔く
私はほしだったのだ

塵ひとつない軌道

孤独の星 / 不可村 / 221119~230127 / Repost is prohibited.





さっきまでわたしをくるんでいた空気をつむいでそのひとは
おまえはまだ見たことがないねとささやいた
わたしにとって世界のほとんどは
あおにびいろをしたゆううつそのもので
うんともすんともいわないわからずやにちがいなかった
ゆめよりもゆめのうつつ
そのひとの手がおどる
わたしの目はとじている
世界はただしく黙しており わたしはいまだなにも知らない
まぶた / 221225 / Repost is prohibited.





闇市に行って食糧を買おうとしたが、闇しか置いていない。
「みんな米や酒から闇を剥がして持っていってしまったんだ」
そう説明してくる店主に僕は不満を隠さず文句をつける。闇市で売るのだから、ものはなんだって強制的に闇を引き連れるはずだ。そうでなければ闇市とは名ばかりになる。
「売ったときはもちろんなんだって闇つきさ。しかし客は受け取ってからこの場で闇だけ引き離して店の前へ捨てていくんだよ。それでもう、余ったのは闇ばかりというわけだ」
台の向こうで首を横に振る店主に向かって言い募ることはもうできず、諦めて闇を買い取る。背負った袋いっぱいに詰め込んだ闇は、帰路やたらと大人しかったのだが、家に着き、夜になった途端に騒ぎ出した。自然の闇を得るとまるで水を得た魚のようにいきいきとしてしまうらしかった。寝床にしきつめて静かにさせようと試みるもあえなく無視され、僕はしぶしぶと闇たちの上へ縮こまりながら横になる。ふだんより濃い夜の空気に全身包まれ、落ち着かない。
闇市 / 221214 / Repost is prohibited.





わくわくするか、よし書こう
下手がつらいか、よし書こう
おのれが憎いか、よし書こう
からだが痛いか、よし書こう
書きたくないか、よし書こう
くるってきたか、よし書こう
加害がこわいか、よし書こう
すべてを呪うか、よし書こう
もうやめたいか、よし書こう
死にたくなった、よし書こう
/ 221023





ばけものとともだちになりたい
ばけものはいつでもぼくをころしてくれる
ばけもののつめをぬってあげる
ばけものといっしょににくまんをたべる
ばけもののおべんとうにサンドイッチをわたす
ばけものとステッカーをやまわけする
ばけものにリボンつけてあげる
ばけものとさんぽにいく
ばけものとしゃしんをとる
ばけものとせなかあわせでゲームする
ばけものとおふろにはいる
ばけもののけをかわかしてあげる
ばけものとならんではみがきする
ばけものとねむる
ばけものとねむる
ばけものとねむる
ばけものがおきる
そういうひがなんねんもすぎて
あるあさからばけものだけがいきていく

22/09/13 ぼくがばけものになるまえに





広場で天使が首を吊ったあと
そこにはまあるい縄が残された
遺体回収の役人にははらわたに
かけつけた葬儀屋には臍の緒に
町の清掃員には花の輪に見えた

落ちた縄を囲んで祈る人々を見て
まるで日輪のようだと誰かがつぶやいた

それをできるほどの風格/220815





僕が船出をするときは
いっとう自慢のハンカチ振って
どうかすっきり送っておくれ
そうでなければ連れてゆくから
別れに流れた涙を吸って
重くはためく湿った柄と
濡れてかがやく瞳と頬を
惜しまず風にさらしきり
隠すことなく送っておくれ
テープの花束投げ入れながら
沈み切るまで見ていておくれ
そうでなければおまえの腕を
そうでなければおまえの足を
のぞむものなら連れてゆくから
僕が船出をする日には
かならず港に走っておいで
まばたきせずに見ていておくれ
おまえ一人をまっすぐに
脇目も振らずただひたむきに
見つめ返すと誓うから
不帰の詩かえらずのうた / 220226





世界でいちばん素敵な姫君
彼女は何でも持っていた
いつも隣に笑顔の両親
空想好きの賢い頭脳
蟻も入れぬ堅い城
鋭く眩い剣たち
騎士は姫に首っ丈
彼女は心が弱かった
姫は自ら飛び降りた!
心は誰にも治せない
どんな愛も空回り
剣の光は針の如
猫一匹も出さぬ城
頭の中で弾ける思考
片時とても離れぬ両親
彼女は何でも持っていた
世界でいちばん哀れな姫君
習作 しのし 0823, 2021





相手の名がゴドーではないことなら既に知っているし、更に言うと私の名はウラジミールでもエストラゴンでもないのだが、今私は一人の男を待っている。その男とゴドーの共通点、お察しのとおりそれはなかなか姿を見せないことだ――ここは果たして何度目の幕なのだろう。――かさかさと気に障る瘡蓋のように風が落ち葉をさらい、そのそらぞらしい匂いと音に呼応して私の指は待ち合わせ場所の書かれた紙の上をせわしなく行き来する。唇をなめる。昨日食べた硬いパンによる傷はまだ癒えていなかった。
0908, 2020





夏の終わりの花火に変わったものを打ち上げようと、植物の種を詰め込んだ花火職人の完成させた花火はどんと怒鳴ってはじけ、憎かったのか恋しかったのかはわからないが職人の背中にふりそそぎ、根を張り芽を出し茎を伸ばして葉を繁らせ花を咲かせ、やがて暗闇のなかで花火の終わりのようにぱらぱらと種子をこぼしたのだという。
0908, 2020