春の午後の長閑さよ
記憶が薄れるのは田畑に萌えいづるものゝせいだらう
すゞめが問う、人間は疾うに滅びたのだらうかと
からすが答へる、さうだ、さうだ、やつらは我々の食べるちよつとの虫や木の実なんかを残して地下に眠つたのだと
春の酒も、夏秋冬と同じく、涙、雨、海水。
4月 15, 2015





白い沼に浸かっているのに一向に白くならぬ
心臓の表面が粟立ちいっさいの色を遠のかせる
純粋も高潔も白ではなくどこかへ引っ越したのだ
残ったものは絶望と懷かしき恐怖であり
しろ、しろのあらわすものは狂気である
4月 9, 2015






泣き腫らした誰かの目のように
罪を孕んで赤らむ、桜の先端
ある瞬間唐突にはじけて散るなら
悲しみは長引かないだろうに
川の流れが足をさらう
膝から下を失ったまま
ここでまた春を待っている
4月 9, 2015





心臓がすりきずだらけのひ、世界中のことばがやさしい
なみだでスケッチブックは埋まる
さかなのいない、しわだらけのしろいうみ
4月 7, 2015





君の逃げ道になりたいのです
逃げることが苦手な君の、ただひとつの逃げ道に
この道に僕が立っていたなら
君はますます逃げなくなるのでしょうか
僕に会いたくないと言って
誰にも見せたくないと言って
毒になるなと言うのなら、僕は薬にもなりません
君が消えてしまいたいときに
悟られず覆うカーテンになりたい
君が涙をこぼすときに
そっと知られず受け取る皿になりたい
君が僕からも逃げるというのなら
せめてさいごに憎んでほしい
「あなたなどいなければよかった」と
望めば僕はすぐにこんな世界から消えてしまうのだから
3月 31, 2015





打ち捨てられたバス停の向こう
遠い瞳で君が待っている
ろくでもない青空と、生きていてはいけない僕
何も知らない蝶を轢くように甲高く車輪が叫ぶ
また十年後
ここで秘密の墓参りをしよう
3月 31, 2015





体にこびりついた罪を暴くように風が洗いにくる
抱えた卵が割れないよう体を曲げてやりすごし
やさしいのに容赦のない風が去ったあとでぼんやりと確信するのだ
風はこちらの後ろめたさを知っている
この頭が忘れ去った悪行を覚えている
3月 28, 2015





そちらではまだ桜は咲いていますか。こちらはとうに桜など滅びました。水面を覗いても誰も映りません、ここは鏡もない世界です。嗚呼、ひどく穏やかだ、こちらに生まれ変われてよかった。
3月 26, 2015





ぼくは春のひと。きみが生まれる日、ぼくは世界にさよならを言う。きみは夏のひと。きみの笑顔をまぶたの裏にやきつけて、ぼくは一年の眠りにおちる。白い時間を生きていけないぼくたちは、きっと誰かの夢でまた、すれ違う日を待っている。
3月 22, 2015





どちらかに、決まってしまえば楽だった。今すぐしぬか生き続けるか。不具や病と健常者、男と女、老いと幼さ。執着する側と執着される側。好きで境界を綱渡りしてきたわけじゃない。でも決まってしまえば寂しさは消えるが、自分自身を失ったように感じるのは何故だろう。
3月 17, 2015