2015.12//
ゆるさない、ゆるしてあげる、どちらならきみの未来はくるうだろうか
いたいほどあなたは清くいぢらしく指のひゞにもきづくことなく
また白でつぶれる前に世界からほどけるすべをおしえてほしい
小奇麗な顔をしている君が今どろんこあそびを見る目の濃度
こんなにもおのれのかげはうつくしくしぬことさえもゆるされるあさ
出たくても家が出さない戸を引けば部屋の向こうにえんえんと部屋
たばこの香まとわすきみはトラックの荷台にゆられやってきたひと
あのひとの名をわすれたらいちばんに花をいけよう、ひがしのまどへ
すきだとは言っていないがきらいとも言っていないと気づいているか
充電の赤いランプに泣けるほど素直になりたいにんげんもどき





2015.11//
そうだったぼくは十四歳だったきみといないとぜんぶわすれる
笑わずにひとつ答えてくれないか一緒に生きるだけでいいのか
この鳥にぼくのこころは重すぎるあなたひとりで飛び立つといい
(翔びたいと願うこころがからだよりその願望をいちばん阻む)
「実は」から始まる話を信じるとなにかうしなう気がしてこわい
首を吊る為の花輪の向こうがわ編んで寄越した貴女が見える
つるぎばのとさよおもさよいろめきてあめを忘るゝ日も近きかも
もし、もし、もし、受話器へ消える問いかけは仮定をうたうように光って





2015.10//
思へども言はずにゐます身をどうか許したまへと三色に告ぐ (思色・不言色・許色
触れません、一度も見ません、番だけをさせてください一晩でいい
一緒にはなれない そんなはずはない、生まれ変わったらきみになりたい
「きみらしい」そう言われるとこわくってぼくは絶対もううたわない
きみだけをきってしまえばこの星もぼくの歴史もやっと終われる
ボイラーのボタンを押してぼくたちの未来も止まるようにしむける
きみの見た星を追うのはあさましく白いちょうちょが視界にかかる
十二月末日までは休もうか、酸素がどこにいるか忘れた
台風の目であることは楽しいよ無理に笑ってなんかいないよ
祈るためそのほねを折る 許してはもらえませんね存じています





2015.09//
海面にくちづけをするきみへ告ぐぼくのしたいをさがしてほしい
絶好の自殺日和は今日だろうたぶんいまならゆるされるはず
色の濃い海はあなたの一部だと教わった夜少し泣いたよ
肋骨を数えてみれば風穴に触れるあわてて離すゆびさき
ちかい初夏きみの墓石を飾るのは造花の白い薔薇でいい、いい

この脚のうろこを削いでつくられた花はしらない色をしている
腹痛にぼくはわらった全世界ありふれている核爆弾も
あと一回刺せば宜しい目の前のそれはあなたの敵です たぶん
思い出すすべを忘れるため、そして忘れるすべを思い出すため
今日もまた渡せなかった花束が積もり積もってここは棺桶





2015.08//
誰とでも愛し合えると言ったのはうそです雨に紛れる本音
死ぬときにひとりはいやでそれだけを理由に年賀はがきを出した
しあわせで、これ以上など望まない、そう誓ったら居てくれますか
心臓に戦場がある走っても走ってもまだとどかないもの
ぼくたちの命を吸ったあの夏の海は今でも青いだろうか
一瞬を目に焼き付けろ永遠は煙となって夜へとけゆく
きみのいう小鳥を探すしあわせはそばにあるのにきみは知らない





2015.07//
蝉時雨、風鈴の音をふりきって君の声だけこの耳に来い
今生はあなたひとりをひたむきに見つめつづける だから生まれた
「愛する」の類義語などは知らなくて壊れたラジオカセットになる
君という花は適度に散るすべを知らずに今朝もこの腕の中
くらやみを忘れたのならいいだろうおいでおいでとさんざめく夏

あるだけの鳥かごたちの鍵をあけ青空に笑むいってらっしゃい
あのひとを拒まぬように全身の細胞膜へ命令をする
きみの持つ提灯だけが沈黙し夏の夜道をさまよっている
君の名を残りわずかな香水へそそぐとじこめられますように





2015.06//
永らえば永らうほどに増す傷をなだめる水もまた増してゆく
夏が来てまた夏が来て日めくりの罪は花弁となって重なる

死すべきとせめて海芋を裂き食らふ (俳句)
きみよりも先に額縁の中へと納まることをゆるしてほしい
もう誰も出ることのない番号を回しつづける おげんきですか
才能がほしくてうまれてきたんじゃない もうひとりのぼくにあいされたい
あんなにも憎んだ服のジッパーのかたちを忘れてしまう ごめん
赤々と三日月の舞う背をなぞり (俳句)
暦には入水の文字を踊らせて今日も昨日と同じ目でいる
桜桃に染むる彼方の魂や (俳句:桜桃忌に寄せ)
くちはしに花びらひとつ俯きて喉元を吸ふ たをる君が背
こんなにもこんなにも濃い夜更けには下りた睫を隣に望む

いきること、しぬこと、そんな現実を忘れてほしい、今だけでいい
消えてゆくすべてのひとにさよならを告げられぬまま己も消える
召し籠むるもみぢば食らふくれなゐの君のかひなに一の字走る
ぼくたちの関係に似たもの夜中隠れて開けるカップラーメン
蜉蝣のごと戀ひ戀ふる病者かな (俳句)
吾が身こそ消え返れかし綿津見におしなべて這ふあをみくさぞも
けしやうらはやがて頭骨を割れぬらむ痛むことをばさきはふことぞ
差し並ぶ日はいとともしわくらばや (俳句)
いつだって口を開いて気づくのは既に傷つけ終わったあとで
大雨のけぶる夜道で標識を手探るように君の名を呼ぶ

らしいっちゃらしいねなんて笑ってる君の香りと六月の水
いつまでも呼んでやらふときめたのだ 金魚のやうな鳥をくはへて
ぼくたちはいつも崩れる手をつなぎ大事にすると言った直後に
鮮烈に駆け燃え果てよ、そのために生まれ来たのだ生きてゆくのだ
ばかだよね、ばかだよねって言いあってそよかぜになるふたりの両手
いちぬけた 昔さけんだあのひとはまぐろになってこの花を待つ
午後三時ひとりでバスに乗っている太宰治の著書をしのばせ
背中から翼のはえる細胞を吸い込んだなら飛べいたゞきへ
朝起きてふくんだ水があまりにも砂糖のようでわたしはびょうき
地球儀のアイスクリームをけずりとるあまいところはあなたの舌に





2015.05//
来世ではどうか一緒の水槽にアクアリウムでひとり指切る
骨壷のぬくさミルクのさみしさは立ち会えぬ日の己への愛
もう無理をしないで泣いていいんだとあの朝死んだぼくへ一言
泣き叫び学び歩いて手を繋ぎ抱いて見送りそしてさよなら
消えてゆくすべてのひとにさよならを告げられぬまま己も消える
春の日は花のはがきを夏の日は海のはがきを送りあう仲

年を経るごとにきらいになっていくそんなひとだけ抱きしめている
音のせぬ顎を頻りにくすぐられ残り香に言う (訊けばよかった)
さみしいと思えば雨が降ってくるぼくいつのまに神になったの
抱擁に近い未来を予感して凪いでは叫ぶ彼女の瞳
はなぶさを見るたび僕はその脳を縛るあなたを逃しはしない
短針のはずれた時計と手枕を交わし交わしてまた朝が来る
身を走る青の重石にしがみつく白紙のままの人生ひとつ
声を出す一瞬前に閃いたきみのてのひら愛撫の如く
どこまでもたったひとりのこの季節空一面にみずうみが咲く
いくさばの青さに帰る君を抱きしずくはすべてこの手の中へ





2015.04//
きみの手にさわり命を確かめる ぼくひとりではわからないこと
ゆめをみる 遠いあの日を追いかける 波打ち際に残された貝

この空が実は空ではないことを知らずにみんな翔ぶ夢をみる
僕の眼をりりしく捨ててほほえんだ君だけは愛さないと誓う
残るのは傷か絆か猫の恋  (俳句)
僕たちはいつかしぬから恋をする みそひともじに想い託して
仰のいたきみの胸から鳥たちが飛び立つさまをじつと見てゐる
忘却を許さぬ酒や花曇  (俳句)
明かされた名で呼ばぬまま君が持つ心の海に小石をなげる
プリペイドカードになろう君の手で傷付けられるならそれもいい
せかいいち会いたいひとに会えなくて無理やり熱が殺されてゆく
あを空は数字だけでは出せぬもの調光卓に涙を散らす  (#高演短歌)

日本の地図を広げて君の名と同じ地名に指を重ねる
一度だけ見たほほえみを消せなくて心の中の煙草が尽きる
向けられた言葉を繰り返す心湯よりも熱く薬は効かず
泣きながら毛を撫でている女生徒のまぼろし纏いうずくまる猫
あすの朝ぼくらが塵になったとてピエロは笑いも泣きもしない
賽を投げ未来のぼくを決めようか散るならいっそ桜の如く
縁起悪い、とかそんなこと言っちゃ駄目逃げてもこれが現実だから
かぎろいの名を持つ君と見るけしき  (俳句)
最期まで愛さないでと言うきみに大丈夫だと引き金を引く
心臓をわざとはずして矢で射抜き憎しみ集め宝石にする





2015.03//
喉奥でたたら踏むのは想いの火今日も貴女へうつせず続く
好きでごめんと馬鹿をつぶやきひとりの星に頽れる (都々逸)
心臓に接着剤を流し込む 願いが叶うことは禁忌だ
涙しか出ないと三回呟いて自身へ十字をつきつける今
川べりを歩いて過去に帰りたい町は記憶の中で息づく
首筋に針をすべらせ流しこむ水銀だけで生きてゆきたい
靴を捨て鉄格子ごと外へ出たぼくらは今宵永遠になる
振り返る我が人生を共にした猫のいのちはやわらかな列
何百回「   」と君を呼んだろう泣かせてほしい、どうかゆるして
君宛に何も言えないまま過ぎていく夜だけがまたひとつしぬ

その胸に帰ってみたい溶けていく君がはきだす言葉になって
どの語句も存在意義を失って君の名だけがあればいいのに
明日から一人称を変えたならその表情も変わるでしょうか
もう共に並ばぬひとをえがくとき煮込み魚の骨がやさしい
もういっそ嫌いたいのに嫌えない僕を貴女は嫌うだろうか
望めども君とは無理で僕の背に線をひくのは飼い猫の爪
死んだっていいと教えてくれるのは君の歌声、あの日の桜
『日常に支障をきたすようならば病気と見做し』先は読まない
君の声聞くたび全て邪推する知りたいという願いは罪だ
夜毎に君へ腕を伸ばせど何も掴めぬ「切り落とせ」 (都々逸)

きみの手をうつわにしては花そそぐ何も知らないままで生きよう
ぱらぱらとおちたことばが発芽して君への薔薇になるまえに摘む
尻尾ふり君の視界を横切って心に爪をひっかける夢
夢だけでいいと嘯き抱きしめたきみはまぼろし淋しさひとつ
矜持など捨てろ冷えゆく足を切りだいじなこえにすがって眠る
泣いててもいいし本読んでもいいし背中合わせでたまに会おうよ
顔知らず会う約束もないくせに花を手に取るきっと似合うと
零と一無駄遣いしてぼくたちはゆるされる日をただ待っている
願わくは桜前線北上と共に笑顔のきみに会いたい
水盆に過去の僕らが沈むまで指をあぶくに刺され見守る

さいごのひ手握り耳に囁いてそれは夢だと長い夢だと
虹吹いて音を失くした声帯は奪い去られた雲の合間へ
君だけが知る君だけの僕で在る、瞼閉じれど青に落ち込む
このままでいいと幾度も言い聞かせ時計が笑うこのままでいい
はなびらをたたむ刹那につつまれる抱き寄せたのはどちらがさきか
神なんていないさ君が生まれたひ建った墓標がかれのねどこだ
ゆくりなく星の重なる夜思う胸張り裂けて君は遠くて
伸ばした手空切り貴女へと向かうなにかですべて完成させる
青の濃い季節にここへ来て御覧すずしさ全部きみの自由だ
梅の香を吸い涙せよ女学生春の命はあまりに無知で

薄氷の如く畳に月刺さり指の腹には響かぬ声を
天翔けるくゞひとなりて打ちなきて過ぐる夜もがもふたりの孤独
願いはひとつ聞かせておくれぬしのさいごの譫言を (都々逸)
君が汚れたなど誰が言ったのか触れれば見えるすきとおる海
酔うならば酒よりもその言の葉で何も要らない他には何も
夢殺し笑い愛しき声探す足に絡むは闇色の闇
まことのみ君へとうたう我が声はどこにも属せぬ羽を隠す
そのうたで教えてほしい今と生こんなに夜の澱こごる日は
やさしさはひとりで在ると決めたとき俄に降って身を濡らすあめ
花鳥と成りて相添ひ風の中月より君と翔りてしがな





2015.02//
毒たれとぬしに手渡す我が心くすり笑まれて憎さ増しける
白藤のはなぶさわけて泳ぐそら浮けど進まず君かけはなれ
「君なんて消えてしまえ」とそう言ったお前が先に消えてどうする
ゆめ凍り君をうたえば締まるくびこんなに遠く狹い世界で
ひとつだけきみにとばそうこのこころどうかそのままだきとめてくれ
さびしさをはねにとぶよりいとしさを歌にかえたい欲しいのはきみ
目配せの、と詠みかけたがやめてやる 続く言葉は君なら解る
花色に染む靄の中抜け出でず此処が彼の地と示す我が影
口笛のひとつでも吹き顰蹙を買いたい夜だどうか嫌って
そして神でもなく仏でもなくて人やあやかしでもない儘で

恵方巻き無言で咀嚼なのになぜ家人が流すスマホでコント
我の名は夜の守り人冴えこほる閨にて遠き微睡みをたつ
君かけり白波纏ふくるぶしとあをぐもむだき舞へども追はじ
虹の玉浮かぶ水面のへだつもの清くとほれどふるるは難し
永遠を無何有の郷と思ひ為す今朝のつらゝにきみの影なし
海の奥伝えに潜る水越えて続く微熱は君のせいだと
散る暇もなく枯れた花だきよせてこの腱を切る空はたゞ青
木に罪をひとは隠すが木は無実 雪の荒野へ虹が浮き出る
さくらばな咲くのなら咲け咲かぬなら咲くな薄紅けぶりて曇る

チケットをご用意できませんでした片道だけで行ってらっしゃい(#チケットをご用意できませんでしたで短歌つくる)
朝日、伊呂波、新聞、手紙、伊呂波、留守居、桜、吉野、名古屋、ラジオ(和文通話表)
あさぼらけ臥せるはこゝろをどり字に隠れしおもひ睡りてしせり
氷爪なでてうつむく痩せた背に「今は寂しい」声がきこえた
何もかも取り上げられて懐かしの白い壁が近づく「たすけて」
君だけに届けとなきつづけた僕を書いてくれたね同じ気持ちだ
生きるわけ問われなくとも芯一本なのにせめ寄るこの寂しさは
矜持捨てすがりつくための手はあるその背にすがる権利をくれよ
子や孫を望めどできぬ身で生きて其処から此処はさてどう見える





2015.01//
明け色の寒風すさび舞いとぶは羽かおちばか清けき糸か
袖さへもゆくすゑ知らぬもみぢ葉や蓋しや汝御心なれば
隠れ散りみをつくすより風のまま曳かれしままに瀬々を渡らむ
金風と呼ばれし我が身なればだに散らさで往かむ路のくさはな
何か言えぼくにさわるなあの頃を忘れてわらうきみがきらいだ
音は澄むすべてを啜り白雪のこぼれし夜半耳に静寂
君を返せと誰を詰ればいいか君のあの声が不意に戻る
あたたかいと思う君があたたかい朝焼け雲の上を歩いて
腹を出し燃え落つ蒼き蜩に夏の終わりのアントとシノニム
ひくゝ笑む夕に染まりし髪をまぜ畳に散るはどちらのものか

棄てはせぬ陽のあるうちの恋ならばひととせももとせ糸を引き取れ
落ち滾つはなぶさ抱きしお前の背まばたきひとつそしてそれきり
若しも明日この文が遺書になったとて後悔などせぬ筆を執り笑む





2014//
年賀状自分が書けば果たし状約束の日に来ないと知っても
此の命光の許へと連れ出して笑いし君とあの日のわたし
何もかも忘れた君の戒名を僕の名前で飾って涙
いつか死ぬことを知らない子の影を踏んだ夏の日ぼくは蜩