暗闇の中で水音がして、すぐさま銛をその方向へ突き刺した。ぎゃん、という汚らしい声が上がり、後戻りできない何かを間違いなく潰した手応えがしっかりこちらの骨を打つ。じんわりと起点から静寂とともに花の香りが噴き出して夜に溶けていった。黒。領域に入ってきたものを、それがなんであれ無駄のない動きで仕留められるように、ずっと鍛錬してきた。星の光は弱く、このあたりの闇と喧嘩して以来すっかり腰抜けの役立たずになったため、頼るわけにいかない。夜の守り人として生を受けた以上は光の下では生きていけないので星など今更関係ないといえばないが。こうしてずっと番をしている。蹲り、息をひそめて、気配を殺す。見えないなら耳で肌で感じ取るまでだ。
さて今宵の獲物はなんだろうと銛の切っ先を上げてみたが、手に何も触れなかった。手応えは気の所為ではなかったはずなのになぜ。朝日が昇るまで身動ぎせず待つ。暁光寝転ぶまだ硬そうな海面を覗き込み、あたり一面にどす黒い赤がのたうっているのを確かめる。やはり仕留めたのだ。岸辺から昼の守り人がこちらを呼んでいるのが聞こえる。夜のうちに寝所で怪我人が出たらしい。休んでいた者のうちの一人が胸元を一突きされたかのように急に叫んで跳ね起きたというのだ。怪我人は胸を抑えて寝所を飛び出し、涙とともに血をてんてん垂らしながら赤い道を作って走り、朝と夜のあいだに爪を挟んで引き剥がして隙間へ身をすべらせ、消え失せてしまったという。
膝下の赤を服がじっとりと吸い上げているのがわかる。神妙に相手の話を咀嚼していれば、そちらは夜に何も事件はなかったかと労られたので、申し訳なさそうに眉を下げ微笑んでみせた。夜の担当はこちらなのに休んでいたかれらに安眠をあげられなかった。しかし相手は気にするそぶりも見せず、いい獲物は獲れたか、そう立て続けに問うてきた。
ああ惜しいことをしたよ。昼の者の心など滅多に食べられない珍味。
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