いなくなったあなたの影は闇よりは薄くそこだけ浮いてあなたの不在をわたしに知らせる。点滅する色とりどりの光は死んだものがこの世にあることの動かぬ証しで、水平線の飾りのようにつらなるそれらの押す細胞はわたしたちのニューロンであり、笑うあなたは飛び交うシナプスの吐息で夜をとかしてわたしに返事をしていた、その返事はいつでも肯定だった。すでにわたしの罪の一部なのにわたしから逃れようとしていたあなたは生まれたての星だった。宇宙の痣が踊っている。わたしは落ちた星のような水平線の光を見つめる。万が一にもあなたがいないか目を凝らして視線で光を掃いて、まばたきをして現実を押し戻す。先ほどあなたは海を背にしてわたしの手を取った、わたしはあなたにすべてを打ち明けた。すべては多く、わたしはぶあつい刃物の背でもってそれらの骨と肉を粉々に打ち砕き、あなたに食べさせたのだった。あなたはわたしの指ごとすべてをうやうやしくふくんで嚥下した。顔をあげる。わたしたち二人きりの海辺の道なのにあたりはあまりに騒がしかった。姿なきたくさんの誰かが追ってくる。ときおり通る、無遠慮な車のライトに暴かれぬようガードレールのすれすれまで身を寄せて、打ち寄せるわたしたちの死へ歩を進め、わたしは語りつづけ、あなたはそのたび頷いた。
 あなたの返事に音だけがずっと聞こえないことにわたしはとっくに気づいていた。今、わたしはあなたの残した影を見ている。のびていく先のその反対側に影とあなたのつながる場所がある、それを追うように小走りになる。次第に速くなる。羚羊のようにわたしの足は夜の道路をかけていく。ここにどうやって来たのかもう思い出せない。わたしは先ほど始まって、今はあなたを探している。

やさしい不在 200601