クラスメイトにするりの人がいる。彼女はスキンシップが過多で、どんな相手にでもすぐに近づいていく。まず人懐っこい。犬みたいだと言ってしまうのは簡単だが、実際、犬のようである。他人に何を言われてもくよくよせず、宿題を忘れても教師に目をつけられることがない。人好きのする顔をしているのだ。鳥を模して結ばれたリボンのセーラー服をくたくたに着こなして、彼女は学校にやってくる。授業中はそこそこ静かに、まじめな顔をしてノートをとっている。休み時間になるとその姿がふわっと消える。誰かが廊下を歩いていると彼女がどこからともなくやってきて、右か左か空いた側に入り込む。そしてするりと腕を絡ませる。誰でもいつのまにか、彼女と腕を組んで手を繋いで廊下を歩いている。もちろん私もされる。だから私は彼女のことをするりの人と呼んでいる。彼女の手はもともと他人のものだったかのようにぴったりと馴染んだ。蛇みたいだと思った。ところで私はスキンシップが苦手で、いくら仲がいい友人や家族であっても触れられるのはいやだった。こどもの頃からずっとそうだ。私はするりの人に電話をした。スマホアプリのメッセージのやりとりも得意ではないし、かといって面と向かっても気まずいからだった。廊下で腕を絡ませないでほしい、と頼むと、彼女は少し黙ったあと、わかった、でも仲良くしたいから、これからは週に一回電話しようねえ、と言った。
 するりの人との電話は五年続いた。私たちはいつのまにか大学生になっていた。電話は習慣で、やめるような気は永遠に起きない気がした。しかし次第に電話の頻度は少なくなっていった。社会人になる頃にはもう電話番号も通じなくなっていた。彼女が今何をしているのか、ほんのときどき私は考える。

するりの人 190825