まずい料理ばかり当たってしまう時期に入ったら会うと決めている友人がいる、その相手の選ぶものなら必ずうまいからだ。七月四日の昼下がりに、実に五ヶ月ぶりに呼びつけた相手は、こちらよりも先に待ち合わせの場所へと着いていた。
食事で失敗しないためにする、確実性が高く、最終的で保守的な手段は、無難な選択を崩さないこと。コンビニエンスストアでも、ファミリーレストランでも、いつものものを選ぶ。というセオリーさえ外れる時期がままある。信頼できるメーカーの冷凍食品だろうが駄目なときは駄目だ。企業側が商品にこっそりと変更を入れている場合もあれば、自身の舌がなんとなく変わったという、どうしようもないケースもある。そうなってくるともう終わり。どこで何を食べても外れになる。そこで打開策としての友人だ。
目利きの確かな友人は迷いなく、待ち合わせ場所の裏手にある中華料理屋に入っていった。無論こちらにとっては初めての店だった。何年も町の隅でひっそり確かに息づいてきただろう老舗の前では青空さえ形無しで、暖簾のくすんだ朱色はというと、地蔵の前掛けのように堂に入っていた。顔もあげずに調理を続ける店主の斜め前に二人で座る。友人が勝手に頼んだ炒飯をこちらが黙々と食べている間、相手は、数週間前に別れたという恋人がいかに惜しい存在だったのかを話していた。
一人で泣きたいときに限って現れるんだ。呼んでいなくても? そう。そのひとがそうしたいというつもりでもないのに? そう、だから尚の事惜しかった。運命だった。そうだ、運命だった。だから別れた? そう、運命ごと破壊するために。
味を訊ねてこない相手に、それでも礼儀として食事の感想を述べる。あなたと食べるとどんなものも必ずうまくて困ると告げる。相手は微笑みもせず卓の上の布巾に手を伸ばし、ばかだなと一言呟いた。
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