友だちに嫌いだと言った。塾の帰り道。相手のほうが僕よりテストの点がいいから妬いたんだ。まずいことを言ったと思ったときには遅かった。友だちの四肢はあっという間に町を包み込むほどの大きさに膨れ上がって、爆発して、子どもの頃にいっしょに観た戦隊アニメのおもちゃみたいにひゅうっと音を立ててどこかへ飛んでいった。その勢いといったらまるで悪夢をつめこんだ風船みたいだった、のこされた胴体を抱きしめて僕がわんわん泣いたそののち五千年の間に、南極へ到達した右腕からはたくさんの植物が生え、すっかり森ができた。左腕はというとアメリカ大陸の東まで飛んでいって新しいクレーターを作り出して観光地を生み出した。右足は大西洋、大きな島を形成し、たくさんの魚や鳥のすみかとなった。左足が着水したのは太平洋の真ん中だった。最初は現地の人たちに巨大戦艦か砲弾だと間違えられて沈められそうになったらしいけど、誤解が解けてからは歓迎されて、みがいてもらったり洗ってもらったりそれはもう誰しもが羨む扱いを受けた。友だちの四肢はそれからも成長を続けていき、人間たちは新しい領土に有頂天になり、道を作るわ喧嘩するわ、家を建てるわ大賑わいだった。動植物が行き来して滅んだり生まれたりを繰り返す。大きくなりすぎた友だちの腕と足はそのうち地球を覆いつくして一周し、とうとう一部が繋がるようになった。再会できた四肢たちはこころなしかとても嬉しそうだった。やがて四肢は胴を見つけ、これまでは道端に転がるしかなかったそれとも繋がった。生きものたちはますます狂乱して友だちの上を移動した。やがてどこかの偉い科学者たちが現れ、ネオパンゲアという新しい名前の刻まれた勲章を友だちへと授与した。今や友だちはどこへでも命を運ぶ大きな道のようなものだった。
 あの喧嘩の夜からはや二億年以上経ったけど、実はいまだに頭だけは見つかっていない。もしかすると他の星まで飛んでいってしまったのかもしれないね、と僕たちはまことしやかにさざめく。こんなに繁栄したのにも関わらず人類はまだ宇宙飛行につまづいている。いつか宇宙まで友だちの頭を探しに行こうと思う、好きだと言うために。


ネオパンゲア/不可村/240209/Repost is prohibited.