魔法のめがねを買った。大手通販サイトで一二〇〇円だった。魔法のめがねはなにしろ魔法のめがねなので、ふつうのものはよく見えない。代わりに視界が虹色に輝く。夢の世界へ行きたいかたへ、との宣伝文句に誘われた。ふだん落ち込んでばかりの私にはぴったりだと思った。コンビニで振り込みを済ませてそわそわして待つ。次の日に届いた。めがねは色気のない茶色の箱に入っていて、思っていたよりも重く、そして少しだけ小さかった。宝石を叩いて割ったものをそのままレンズにしたようだった。私はめがねをかける。玄関がきらきらしたものに包まれてよく見えなくなった。歩きたくなって、そのままの姿で外に出る。久しぶりの外の空気だった。ビーチサンダルに安物のキャミソール、擦りきれたジーパンの私と、魔法のめがね。すれ違う人々が私を振り返っていたようだったがよくわからなかった。それでいいと思った。私は肩をいからせて歩いた。後ろから声がした。あれ、SNSで話題の。映えってやつ。そうそう、撮影用のおもちゃのグラサン。
しばらく歩くと近所の公園に着いた。ろくに見えない状態でも意外とたどりつくものだ。私は魔法のめがねを外して汗をぬぐい、近くの自販機でジュースを買う。幼稚園児くらいの小さな子どもが寄ってきた。もじもじするその子どもに、私は小さなめがねを差し出す。頭の大きさがめがねのサイズにぴったりだと思った。子どもは不思議そうにしていた。魔法のめがね、あげる、私はそう告げて立ち上がり、よく見えるようになった道を戻っていった。
魔法のめがね 190722
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