君からもらったものを覚えている。私はそれを埋めてしまったかもしれなくて、探しているのだが、どうにもわからない。一向に見つからない。庭だったかもしれないし、植木鉢だったかもしれない。とりあえずあたり一帯ぜんぶ掘り返してみたがどこからも出てこない。もらったものそのものは、はっきり思い出せるのだ。記憶が形になってつまみ出せそうなくらいには。しかし実物は手元にない。大事にしすぎてわからなくなってしまったのだ。たぶん埋めたはずだと思う。でも、どこを掘り返してもやはり見つからない。
 埋めたのでないのなら私はそれを食べてしまったのかもしれない、食べられたそれは私の中ですっかり消化されてしまって、舌で転がされて、食道を旅して、胃液でぐちゃぐちゃにされて、腸壁から吸収され、血管をめぐり、ひとつひとつの細胞にまで届けられ、しみわたり、取り外すことのできないほどに一体化してしまったのかもしれなかった。そうなったらもはや私がそれだ。でも残念なことに私にはそんな自覚はない。私にはこの指で触れるものが必要なのだ。君からもらった事実をいつでもそれに保証されたい。のに、どこにもそれはない。
 君からもらったものを私はよく覚えている。本当に、呆れるほどによく。それは複数あって、遠くから見るとひとつだった。私はそれをふだんは鍵のついた箱に大切にしまいこんでいた。寝る前には取り出してよく磨いてやったものだった。抱きしめて眠る日もあった。それは薫り高く、やわらかく、ほどよくひんやりしていて、私にとって最高の抱きまくらになった。ともにすごすだけでは飽き足らず、私はそれの写真をいくつも撮った。最高の一枚をもとめて様々な角度から見た。それそのものを持ち歩くとなくしそうで怖かったから、代わりに写真を見つめるにとどめていた。今の私の手元には写真しかない。写真だけあっても仕方がない。
 君からもらったものを忘れられない。それはつまり君を忘れられないということなのだと思う。君のことを覚えている。君が私と一緒にいるとき、自身の一部として私をみなして話しはじめる瞬間に融解する空間を覚えている。積み上げればむしろ崩れゆく君のほころびを今でも指の先に灯せる。一瞬たりとも君を忘れられず、私は、さびしい。

君からもらったもの/240214(231031)/不可村/AI learning and Repost is prohibited.