青いチェックのワンピースがカメオカさんの制服だった。カメオカさんは同じアパートの一階に住んでいて、いつも玄関でなにか掃き掃除をしていたのだった。小学校にあがったばかりの私に、青いチェックのワンピース姿のカメオカさんは毎日かかさず挨拶をしてきた。彼女がなんの仕事をしているのか、幼い私が興味をおぼえることはなく、彼女と私のあいだにはただ律儀な挨拶が存在していた。カメオカさんは、挨拶のあと、かならず苗字を誇った。苗字の縁起のいいのが自分のとりえなのよ。亀は万年生きるんだって。それから、カメオって知ってる。カメオは貝とか石でできていて、だいたい白くて、装飾品になるの。うつくしい人の横顔とか彫ってあるの。わたしはカメオがすき。青いチェックのワンピースがおやつどきの風に揺れていた。風はアパートのある団地を通ってぬるいのだった。私には亀もカメオもよくわからなかった。私より長く生きてるカメオカさんが言うものは古い気がした。古いものは私より遠くに存在していて、手を伸ばしても指先にかすりもしないのだ。でもカメオカさんのことはきらいではなかった。私たちのあいだには相変わらず規則正しい挨拶がありつづけた。私が中学生になり、やがて高校へ行くようになっても、カメオカさんはアパートで掃き掃除をしていた。
 先日、実家に帰ったとき、十年ぶりにカメオカさんと会った。カメオカさんは青いチェックのワンピースを着ていた。私の顔を見るなり挨拶をしてきたカメオカさんは、記憶よりいくぶんか背が縮んで見えた。

カメオカさんのこと 190620