我が家にある電子レンジは年代物で、仕事終わりに気まぐれに入るには少しだけ心もとない。夫はその灰色の小さな電子レンジがお気に入りで、今朝も通勤前の最後の仕上げだと言って入っている。加熱されてくたくたになった夫は生まれたての子羊のようなので、毎回見ていて楽しいが、あいにくと私には一緒に入る趣味がない。そんなことで自分を整えるのは自立していない子どものようだからだ。私は幼い頃から電子レンジの中が好きではなかった。電子レンジの中は音がまったくしなくて、それはとても奇妙で、私は我慢できずにすぐに出てきてしまう。入るのは内部を掃除しようと思ったときだけだ。夫は私の言い分を笑って流すが、それでも否定せずに尊重してくれている。電子レンジのほうは、これは私をどう思っているのか分からない。自立した大人だと思っているのか、もしかしたら腰抜けだとばかにしているかもしれない。電子レンジは今も静かに夫を温める。オレンジの光が網目模様から漏れる。
 電子レンジは冷蔵庫よりも小さい。オーブンのように華やかではないし、キッチンの中でも一番異質な気がする。電子レンジは宇宙から来たのかもしれない、と、ふと思った。私たちを征服する魂胆かもしれない。だとするとそれはかなり成功している。私たちはもう、電子レンジの助けなしに生きていけないからだ。人間関係で挫けるのは解凍がうまくいかなかったからだし、勉強や仕事に集中できないとワット数を間違えたからだということになる。夫のように毎朝入るほうが本当は普通なのだ。
 私はいつも電子レンジを疑いの目で見る。このキッチンを乗っ取られてはたまらないからだ。しかし私の唯一の家族である夫は今日も骨抜きになりながら電子レンジから出てくるし、私はそれを見守るしかないのだった。

電子レンジに入る夫 190923