7月 15, 2015
SS企画《俺のグルメFESTIVAL》様参加





タイム・リミット

 いつもお弁当を残していた先輩が、急に完食するようになった。
 女子高だから、皆ファッション雑誌なんか広げて、ダイエットの話をよくする。しっかり者だけどちょっと流されやすいふしのある先輩は、そういうのをとても気にしていた。
 なのになんで急に、全部食べるようになったんだろう。
「あたし卒業したら、県外で一人暮らし始めるから。お母さんの手作り食べられるのってあと何日だろう、って考えたら、残せなくなって」
 私の問いに先輩は笑いながらそう答えた。今まで残してごめん、と先輩は呟きながら、可愛い弁当箱に納まった綺麗なオムライスをつついている。
 私も今まで、つまらない理由で残してきた気がした。あと何日、残ってるのかな。

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ぼくらをつなぐ優勝グルメ

「食べたことない」
 困惑しきった部長の声に全員が振り返る。
 大会の結果発表で悔しさを輪唱した合唱部の面々は、打ち上げせんと街へ繰り出す直前。ファミレスへ決まりかけたとき、一人が「ハンバーガー」の案を出した。なんだかチープ、と白けた空気へ落とされたのが、先ほどの一言。
 親が厳しいせいで、店に入ったこともないらしい。偏見はよくないが現代っ子として由々しき事態、チープだからこそのあの良さを知らないなんて。
 押されて入った店で、薄いバンズや紙についたケチャップ、つぶらなピクルスを、部長はきらきらの目で観察している。部員たちは祈った。大会はまずい結果に終わったが、今日が部長にとって最高の記念日になりますように。

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いただきます

 はじめまして、そこのひと。僕は異星人です。
 驚かせてしまいましたね。ここは地球、緑豊かで水も豊富な星と聞いていました、少々想像から離れた景色ですが、到着できて感無量です。
 それにしてもどうして泣いているのですか。悲しんでいるのですか。他の生き物は?
 もしかして、もうこの星にはあなただけ、なのですか。
 また驚かせてしまいましたね。言葉が通じないと厄介です。あなたの涙の味でわかりました。あなたの祖先は、素敵なものを食べて繁栄してきたのですね。この星は、僕の踏みしめている大地は、たくさんの命を育み、そして失ってしまったのですね。ありがとう。この星を知れて、あなたに出会えて、よかった。
 ごちそうさま。

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或るセルにて

 裸になると、無性にさびしくなる。
 そしてさびしいと冷蔵庫が恋しくなる。いざシャワー、のはずが私は冷蔵庫を開けていた。服は鎧だとも聞くし、心許ないのは裸だと身を守るものがないせいか。そんなことを考えながら裸のまま、小さなアパートでひとり、ひんやり静まる光を浴びている。昨夜ラップをかけたアボカドたちと目が合った。酒は今はないので料理だけだ。
 深夜、開けっ放しの冷蔵庫から洩れる明かりに照らされ、狭い廊下で膝を抱える裸の私の影が、小皿に伸び生ハムをつまんでいく。ぽた、と雫が膝小僧に落ち、やっと私は自身の疲労に気づいた。
 光る生ハムとアボカドは、これから私の一部になる。なんて素敵な。もう、さびしくない。

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