300字SS

 兄に見送られてこの国に来て、それからは毎日、国内外の人々に敬われながら生きている。
 すかすかに広い国、囲む壁一面にはこどもたちの割り算の宿題が貼られており、その光景は私たちの豊かさの象徴で、長すぎたジーンズの裾を集めて作った服、それを身につけて人々は私たちを拝み、わざと多く作りすぎた食事を供え、わざわざ言わなくてもいいことを他人と話す。ここでの生活にも慣れた。来るきっかけとなったあの日の、二人組を作れなかった体育の授業のことももう忘れそうになっている自分に気づく。
 先日、祈りを捧げに来た兄を見かけた。家業を継いだ兄は替えのきかない存在として何不自由なく愛されて生きているようだった。


------------------------
「福の国」
一次 お題:余り
200307 Twitter300字ss 企画さん参加作品。空白改行無視で292字。