300字SS

 カヤの実は粗方とりつくされていたので代わりにシイの実を削った。このあたりで採れるシイの実はあぶらをよく含んでいて触ると手がすべる。それが何のためにあるのか誰も説明ができないのに続いていることは世の中に数多あり、そして私たちもそういった慣習に囚われている集団のひとつだった。大切な食事に違う素材が紛れたことに誰かが気づくだろうと私はぼんやり思っていたが、予想に反して叱られることはなく、興奮だけがひっそり増してやがて最高潮に達する。どこへ行くためでもなく作られた橋、誰のためなのかわからない飾り、踊り、私たちはその日を迎えると正気を殺すように笑い、よく食べる。
 橋の上で誰かが手を振っている。日が沈む。



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「おめでとう」
一次 お題:祝う
191207 Twitter300字ss 企画さん参加作品。空白改行無視で299字。今年もお疲れ様でした。