300字SS

 久しぶりに高校の担任に会った。今でこそ私は落ち着いた大人になったが、あの頃は変な学生だった。体育祭の最中にパンの点数シールを集めだしたりする、若者らしいといえばらしい、未成熟でおかしないきものだった。楽しかったように思う。彼女の目に実際どう映っていたのかはわからない。
 実はわたし、頭に窓があるの。唐突に彼女がそう言う。人間が進化の過程で塞いだ頭骨の窓を、彼女は完全な孔として持っているらしい。私はいい景色でしたか、そう問えば、ええ、と彼女の脳から出た答えが声を伴ってやってくる。私は満足して頷く。それから私たちは当たり障りのない会話をして別れた。私はその夜、彼女の骨から今見える景色を思って眠った。



------------------------
「景色について」
一次 お題:窓
191102 Twitter300字ss 企画さん参加作品。空白改行無視で299字。