300字SS

 左の脇腹をぐっ、と押される。ちょうど肋骨の下である。役作りでへこんできたおれの腹を押してきた相手は、そのまま何か考えているようだった。きっと、ここに怪我をした場合にその傷が致命傷たりうるかを考えているのだろう、とおれは思った。それならば鳩尾のほうが理に適っているので、相手の手を取ってそこへ導く。相手は納得したようだった。おれはそれを目の色で確認し、ゆっくりと倒れる。
 肘をついた神がおれたちを見ている。おれの人生はここでおしまいなのだった。配られた本にもそう書いてあったのだし、そうなのだ。わかりやすくていい人生だ。
 数時間前のおれの死を悼みながら、おれはコンビニで惣菜を買って帰る。安価で手軽なものだった。



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「出来合い」
一次 お題:演じる
190907 Twitter300字ss 企画さん参加作品。空白改行無視で300字。実際のところ監督も脚本家も客もだれも神様ではない気が個人的にはする。