300字SS

 見知っている場所か見知らぬ場所しかない。旅先の話だ。ここには来たくないと思っていた。いつか来ることになったとしても、それは遠くの未来の話で、うまく想像できなかった。このタイミングで来ることになるとは人生とはわからない。どこまでも続く橋の上を私は進んでいく。橋のすぐ脇を腰まで浸かった一団が通り抜けていった。川原にはこどもたちがいて、遠くなる私のことをじっと見つめてくる。その足元に積まれた石が見える。船頭がいたので調子はどうか尋ねると、ここは客足が途絶えなくてよく稼げる、と返された。歩くのが面倒で小銭を探したが、身一つで来た私に出せるものはなかった。呼び声が聞こえる。私は振り返らずに歩いていく。



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「七日目」
一次 お題:旅
190804 Twitter300字ss 企画さん参加作品。空白改行無視で299字。