300字SS

 戻ると彼女は事切れていた。私はてのひらにたたえていた水を大地に吸わせる。干上がりかけた川から必死の思いで掬ってきたそれをぶちまける。足元に色がついた。風が耳元でうなるだけで、立ち去るまであった彼女の懇願はもう聞こえなかった。大地と同じくらい乾いた彼女の唇を視線でなぞる。もう二度と動かない腕をひっぱるとむりやりあわせた肌がさらさら鳴り、それに一度目を閉じ、また開くと、そこにはごみだらけの部屋が広がっていた。
 腹を掻きつつ台所に向かうと、シンクの前に彼女が立っていた。鈍く光る蛇口を捻り、コップに水を汲んで二人で飲む。薬くさい、薬くさい、そう言って笑いあう、私たちの声がワンルームに響く。



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おいしいみず 
一次 お題「水」
190601 Twitter300字ss 企画さん参加作品。空白改行無視で293字。