地に足のついた者から咲いていく。
感情表現の苦手な者が増えた結果、人類は退化し、言葉も表情も失った。新しいコミュニケーションの手段は花だ。足から根を張り、背を伸ばし、咲く。花粉を飛ばして他人と関わる。それが当然となった。
街は一年通して花畑のようだ。
しかしある日咲けない者が現れた。咲くためにあらゆる研究をした彼は、とある失われた行為を知り、酒を用意して外へ飛び出す。
誰に見られずとも花は花だが、本人からは見ることのできない、他人からでなければ分からない姿もあるだろう。
だからこれはたった一人咲けない者の役目なのだ。物言わぬ花吹雪の中で盃を傾ける。
生まれて初めてやっと微笑んだ彼の姿を、見るものはいない。
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『埋もれ木に花』 一次 お題「咲く」
190406 #Twitter300字SS 企画さん参加作品。空白改行無視で300字ちょうど。
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