人が薬になることが確認された。
人間を丸呑みすると、呑んだ対象の気持ちになれるというのだ。生まれつき感情鈍磨の者、気分変調の病の者にてきめんだとして、このことはまたたく間に広まった。人々は薬として他人を狩るようになった。
幸福な気分を得るために働いたり遊んだりすることはもはやばかばかしいことだった。幸福な気分になりたければ、幸福そうにしている誰かを薬として丸呑みするほうが確実で手っ取り早いからだ。
やがて、人間社会を占めた感情は、幸福にはほどとおいものだった。それでも人々は他人を薬にすることをやめない。そして今日も、幸福を求めて自分を呑もうとする相手を睨み付けながら、薬になって死んでいく。
------------------------
『ひとぐすり』 一次 お題「薬」
190202 #Twitter300字SS 企画さん参加作品。空白、改行のぞいて280字。
|