ひどくさみしいのだと、彼女は言う。
物思いに耽り、高い空を見上げていることが多くなった。返事は鰯雲のようで要領をえず、目の焦点もふらふらしている。趣味も手につかないらしい。
一緒に歩いていたとき、突然彼女がはち切れて割れた。裂け目のできてしまった胴体へ手を差し入れ、中を覗いてみると、彼女の心臓はすっかり熟していたのだった。僕はしばらく彼女の体の中で、紅葉した血管や骨に囲まれすごしていた。
彼女は秋になってしまったのだ。理解して外へ出てきたときには彼女はもう朽ち始めていた。ぽろぽろ落ちては実になり種になる涙つぶを拾い上げ、鉢に入れてやることにする。季節を越えてまた彼女に出会えるように、祈りをこめて。
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『僕のハイネ』 一次 お題「秋」
18/09/01 #Twitter300字SS 企画さん参加作品。空白、改行のぞいて299字。
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