あの頃は、ビーズが大事だった。無料配布の缶ジュースが好きだった。柄杓を仰々しく振るのが楽しかった。

 水拭きした墓石へ青年は膝をつく。いつかこの下へ入る、そんな権利はあるのだろうか。別居したままの両親はこの墓をどうするつもりだろう。住職からもらえるビーズセットや缶ジュースを片手に走る子供たちが、青年の黒い目へ盆灯篭のように映り回る。
 そうしてまた、例年通りの挨拶を彼は唱え始めた。
 そちらはいかがですか。こっちは暑いです。従兄弟のほうを見守ってやってください。受験で大変だそうです。ぼくのことは、気にしないで。

 手を合わせ終わり、青年は徐に空を見上げた。夜と夕を区切るように、飛行機雲が白く遠く、走ってゆく。








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『青の追憶』  一次  お題「お盆」
 15/08/01 #Twitter300字SS企画さん参加作品。