やさしい言葉とは、なんだろう。
『言葉屋』の看板をかけ、店主は曇天を見上げた。とがりきった字を作業台に並べ、一本ずつなでては伸ばしていく。素直に柔らかであれ、健やかに和やかであれとまじないをかけながら、針金のようだった文字たちを束ね、簡素なセロハンのみで包みブーケにする。
しかし誰がこんな迷いだらけの己の言葉を求めるのだろう。誰の心も癒せない。己には言葉や文字にふれる資格などない。資格? いや、こんなことを思うからこそ、己の発する言葉は毒を含む棘になってしまうのだ。看板など下ろすべきだ。
「ことば、ください」
客の声に、店主は曲げていた体をゆっくりと戻す。ああ、客のくれる言葉はこんなにも、やさしいのに。
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『あなたときみとぼくたちへ』 一次 お題「願い」
15/07/04 #Twitter300字SS企画さん参加作品。
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