桜を絶やせ。
ちょうど桜の咲く時季、そう書かれた紙が世界中の人々へ届いた。最初は疑問を感じていた者も、誰もが同じ内容のものを持っていると知り、その紙は次第に無視の出来ないものになっていく。一体どこの誰が何のためにと皆が不思議がったが、結局、刃物を持ち寄って、花見の終わりと同時に桜を葬り去ることになった。
夜毎、また一本、また一本とこの世から桜が消えていく。
そうして最後の桜吹雪が舞う頃、皆の目が急に覚めた。降ってくるのは花びらよりも濃い紅の雨。傍らに倒れ微動だにしないものは桜の木ではなく、花見に来ていた女たちだった。
――春になると世界のそこかしこで泣き声が聞こえるようになったのは、それからの話。
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『たえて桜のなかりせば』 一次 お題「花」
15/03/28 #Twitter300字SS企画さんに参加したもの。298文字。
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