「このまま真っ逆さまに落ちたら」
 僕が毎年このすべてりんと張り詰める季節に思い返すもの、それがその言葉。まだ当時十五歳ほどだった幼馴染のその女生徒は、中学校にあがってから、少し、瞳の色が遠くなった。毎日のように学校の最上階の窓越しに真下に広がる校庭を見つめるようになった。そうしてそんなある冬、後ろに立つ僕に言ったのだ、もしこのまま彼女の願いが叶ったなら、音を吸い込む雪原には赤い花が咲くだろうと。彼女の声は白く積もる。
「こんな私も美しくなれるのね」
 それから十年が経つが卒業してから彼女の行方は杳として知れない。僕は毎年冬になると、甦る声に促されるように、高い場所から下を見るのが癖になっている。





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『かざれ』  一次  お題「雪」
15/01/31 #Twitter300字SS企画さんに参加したもの。297文字。