twnovel:140
成人のお写真を撮る日、お母様はわたくしに「その指輪を外せ」と仰いました。「お前の見合い写真になるやも知れぬのに」いいえ厭です、お母様。お母様はご存知ないでしょうけど、わたくし、もう、心に決めたかたが居ましてよ。だからこの指輪を外すことなんて、出来ないの。
1月 16, 2015





twnovel:139
お前の人生は悪くないよ。四肢のないお前が舌を噛まずにここに来た意味も分かるよ。目や頬の動きで文を書くのには色々必要だし。 でも何故お前の語る物語の中に俺への愛が含まれてるんだ。何故今更「僕は女だよ」なんて明かすんだ。
気付け。お前の人生を売れないと言った理由に。
(138と繋がりあり)





twnovel:138
僕に告白した人が僕に振られて泣いている、そういう時僕は悲しげな表情を浮かべ、その裏でどうこの状況を書けるか心にメモをとる、そんな人生だった。けれど今の僕には腕も足もない。これまでかと思った時、小説家の友を思い出した。
なのに何故君は、「書けない」なんて言うの。
(136と繋がりあり)
1月 15, 2015





twnovel:137
ペンだと思って手に取った、それがいつの間にかナイフになった。気付いて直ぐに、それを体に向ける。
――今までごめんなさい。ありがとう。おねがい、ぼくからみんなをたすけてね。
(twnvday参加のもの)
1月 14, 2015





twnovel:136
「きっと三流小説くらいにはなるんじゃないかな」旧友が俺に小説のネタをくれるというので、その言葉を綴っていく。両親、恋、友人、病気、彼自身、知ってしまったことと、そして明日のこと、俺のこと。「どうしたの」手がとまる。こいつの人生を、売りたくない。
(#twnvday参加のもの)
1月 14, 2015





twnovel:135
僕の愛する猫は、歌うことが好きだった。僕が調子っぱずれに涙を落として恋の歌を口ずさむ、そのたびに猫は、大声を僕の声に被せるのだ。 いやもしかして、あれはへたっぴって言ってたのかな。部屋に響くのが僕の声だけだと思い知って、改めてもうその猫がいないことに、泣いた。
1月 14, 2015





twnovel:134
飛ぶ鳥を落とす勢いで、とはよく言い表したものだと思う。小説を生み出すことに目覚めた弟子は在学中に何冊も世に作品を出し、そのほぼ全てがベストセラーとなった。そんな弟子の使うペンは羽根ペンだ。読んで落ちたひとびとの背から、新しいペンを作るのである。
(#twnvday参加のもの)
1月 14, 2015





twnovel:133
パパ、今日のバースデイパーティ素敵だったわ。――寝付けないとき、あたしはパパに心の中で手紙を綴る。そうすると不思議に、すっと眠りにつけるのだ。
拝啓、愛しいパパ。今日あたし、ティーンエイジャー卒業よ。――パパがお星様になって二年。今でも手紙は、続いている。
1月 13, 2015





twnovel:132
「きたないものを食べていると」くちが穢れるよ。
その言葉にはっとして口許を覆い食膳を見れば皿の上は全て未知のものに変わっていた。否戻ったのか。今、何を、自分は食べていたのだ。声は続く。
「くちが穢れれば、吐いた言葉が毒になる。気を付けなされ」
1月 13, 2015






twnovel:131
「いませんよ」少年は友に会いに家へ行ったが、彼の母親にそう返された。行き違いかと通学路を戻るがどこにもいない。再びインターホンを鳴らす。
「いませんよ」友の母親は笑顔を崩さない。二階の窓、本を読む友の姿。やっぱりいるじゃないか。インターホンを鳴らす。
「いませんよ」
1月 12, 2015





twnovel:130
青空が割れて宇宙が小さなキューブになって次々降ってくる。宇宙から青空を守る役目の俺たち仲間は走ったし翔んだけど、間に合わなかったのだ。仲間の或る少女が、宇宙からオルゴールのように回転し歌って封印すると言い出した。彼女によって守られた青空を、今日も俺は見上げる。
1月 12, 2015





twnovel:129
卒業式の日に遅刻した。全員に小さな紙袋が渡されて、中の水をこぼすな、と言い付けられる。でも僕の紙袋からは水がどんどん漏れていくんだ、悲しくなって焦る僕、無表情で無言の先生、黒板を見たままの友達。めでたい卒業式の筈なのに、幕は白黒だった。笑い声の消えた小学校。
1月 12, 2015





twnovel:128
真夜中電話がかかってくる。「もしもし。ひとりで泣いてませんか」誰だろう、でも優しい声を突き放せない。
就職して暫く後、大学時代一人で住んでいたアパートの電話番号が過ぎり、気紛れにダイヤルを回す。「もしもし」返ったのは鼻声。僕は今日から、毎日電話をしようと決めた。
1月 12, 2015





twnovel:127
僕の声がミイラになった日、兄は泣いた。当時の僕の目には17歳の男子高校生というものはもっと完成されたものに映っていたのだ。病で後に兄は他界し僕はあの日を思い返す。今なら分かる、17歳の彼の涙は尊かった。
――兄を思って歌うときだけ、干乾びた僕の声帯は、甦る。
1月 10, 2015





twnovel:126
母は毎夜二時をすぎると、赤子が泣くと言い猫を追いかける。擦り切れた寝巻き、踵の厚い足でアスファルトの道を走る母を、僕は窓越しに見つめるだけだ。猫が鳴く。母が追う。僕の喉が動く。母さん、母さんの追い求める子はその薄汚い野良猫じゃないよ。今日二十歳になった、僕だ。
1月 9, 2015





twnovel:125
この星にはぼく以外、言語を知る者がいなかった。きみはぼくの愛の言葉を見て聴いて、首を傾げていたね。
でもどうして重なる唇を拒まなかったの。何故受け入れて消えたの。何を思っていたの。
誰も誰も誰もきみもうしなわれた星で、一輪の白い花の前、ぼくはとわに顔を覆うのだ。
1月 8, 2015





twnovel:124
少年は間違つてゐたのだらうか。自問する。生まれて以来外を知らぬをとめを、海に連れていつたこと。花野を見せたこと。をとめが云ふ。「外を見せて頂いてから、忠実にお話を書いて居るわ。でも読むと皆、欠伸をするやうになつてしまつたの」さて、少年は間違つてゐたのだらうか。
1月 7, 2015





twnovel:123
君が夢を見続けると決めたなら、私は夢で在り続けるよ。君が向き合うのをやめるなら、私はそのまま黙って逃げられてあげる。私が君にしたように
1月 7, 2015





twnovel:122
人生が面倒になったので許可証の手続きに向かう。今の世は自殺禁止令が敷かれ、破れば無関係な人にまで賠償請求だのがいくのだ。流石に迷惑をかけられない、許可証で許可を得なくては。併し手続きは矢鱈億劫で時間がかかった。ああ、やはり人生は面倒だ。真っ当な死。
1月 6, 2015





twnovel:121
誰でもよい。よいのだ。誰か、この秘密と罪を知ってくれまいか。ひとり墓に持っていくと決めていたのだが、着物が重過ぎて三途の河の老夫婦にも会えそうにないのだ。打ち明けるのは大事な相手ではなく、どうでもいいひとにしろと、そうはいうけどね、きみ。頭のない十字架が振り子。
1月 5, 2015