300字SS

 霧が消えない。
 突如として現れた、何日間もしつこく消えない霧に、とある町の人々は悩まされていた。洗濯物は乾かなくなり、こどもたちから笑顔は消え、恋人たちも行き場をなくす。専門家が集まり知恵を絞ったが、原因も対策も分からない。科学的な仕組みは分かっているのに、その霧を晴らすことは誰にもできないのだった。
 人々は霧のある状態に慣れるしかなかった。実際、分かりやすい被害と言えば、日光を通さないほかは通信電波の阻害程度しかないのだ。車はのろのろと走ることが当たり前になり、こどもたちは笑い声だけを霧中に響き渡らせ、恋人たちは手探りで愛を交わしあった。
 そこに町があったことを、今はもう誰も知らない。





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『むこうがわ』 一次 お題「霧」
 18/11/03 #Twitter300字SS 企画さん参加作品。空白改行のぞいて298字。誤変換があったのでそこだけ修正しました。